第5-8話 探索、海中迷宮(後編)
「レイル、助かりましたっ!」
渾身の力でロッドを振り上げる。
魔法装置の守護者として出現したリヴァイアサン。
ヤツが放ったメールシュトルム……フィルとアクアを襲った海水の渦から、間一髪ふたりを救い出すことは出来たものの、リヴァイアサンはとぐろを巻き、魔法装置を守る構えをとる。
「くっ……Sランクモンスターであるリヴァイアサンを使役するとか、聞いたことないぞ……!」
「ラクウェルの冒険者ギルドにはテイマースキル持ちもいたけど……あのクラスのモンスターをティムする使い手は世界中を探してもいないんじゃないか?」
獲物であるロングソードを構え、すっとオレたちの前に出るロンド。
ロゥランドでもミドルランドのモノでもない魔法に、操られるはずのないモンスター。
いろいろ気になることはあるが、まずはここを切り抜けないと始まらない。
相手はSランクの水棲モンスター……状況も地形も奴に有利だが……やるしかない!
「……ロンド、やってくれるか?」
「ふふ、久しぶりにお前とボクのコンビネーションを見せてやろう」
フィルの魔術を使うにしろ、オレの召喚スキルを使うにしろ、ヤツの動きを止めることが必要だろう。
今こそラクウェル冒険者学校随一の迷コンビと言われたオレたちの力を見せるときっ!
ロンドがにやりと頷いたことを確認すると、オレはルアーをガシイッとロンドの腰に引っ掛ける。
「行くぞロンド、お前の力を見せてやれっ!」
「任せろ! ……いまだ、飛ばせっ!」
オレとロンド、鍛え上げられたコンビネーションは、相手の一瞬のスキを見逃さない。
「「激流の太公望」!」
「どっせ~~~いっ!!」
「!? 釣り糸で、人間をっ!?」
フィルが驚きの声をあげている。
全身のバネを使い、ロッドを大きく振りかぶる。
グランミスリルのラインはオレの力を何倍にも増幅し、ルアーに伝える。
「ぐっ……さすがレイル、いい加速だ!」
ぐんっ!!
ルアーの動きに合わせ、大きな弧を描き加速されたロンドは、剣を構えいまだ渦巻いている水流を切り裂きながら、一直線にリヴァイアサンのもとへ向かう。
バシュウッ!
グオオオオオンンッ!?
まさか人間が、水流を切り裂き、一直線に突っ込んで来るとは思わなかったのだろう。
ロンドの剣閃が煌めき、リヴァイアサンの胴体に大きな傷をつける。
ガシイッ!
すれ違いざま、腰に引っ掛けていたルアーをリヴァイアサンの胴体に撃ち込む。
さすがロンド、オレがして欲しいことを完璧に実行してくれるぜ!
いまだっ!
オレは大きく息を吸い込み、フィルに声を掛ける。
「フィル! なんか”ああいうの”が好物な召喚獣を教えてくれっ!」
「はえっ!? ……で、でしたら、こういうのはいかがでしょう?」
ぱああっ!
あまりに華麗な?オレたちの戦い方に驚いたのか、いささか反応が遅れるフィル。
それでもオレに召喚獣のイメージを送ってくれる。
脳裏に浮かんだのは大きな口を持つ寸胴なヘビのような姿……なんでもいい、リヴァイアサンを餌にしてコイツを……!
「こいっ、「サーバントフィッシング」!」
カッッ!
スキルが発動した瞬間、銀色の光が広間を満たし……。
ずももももももっ
直径20メートルはあろうかという大口を開けた、巨大なヘビの化物が光の中から現れる。
「うわっ!? あぶなっ!?」
現れた召喚獣の余りの巨大さに、慌てて身をかわすロンド。
バクンッ!
ヘビ型の召喚獣はその大きな口でリヴァイアサンを一飲みすると、光とともに消えてしまった。
「「「「…………」」」」
あまりにあっけない幕切れに、思わず無言になるオレたち。
「……アレは”暴虐なる終焉”と呼ばれる伝説の魔獣グランツチノコ……!」
「獲物を際限なく食らい、最後には国一つを飲み込んでしまうという……ワンタイム召喚で助かりましたわっ!」
「って、やりすぎだああああっ!」
ぺちん!
「へうっ!?」
危うくこの島を滅ぼしかけたオレは、思わずフィルの脳天にチョップを食らわせるのだった。
*** ***
「はうぅ……レイルが腹ペコ魔獣をご所望なので厳選しましたのに……」
「厳選しすぎだろ……」
頭を押さえ、耳をへにゃりと下げているフィル。
魔法装置の守護者、リヴァイアサンがオレが召喚してしまったグランツチノコ?に一飲みにされた後、ようやく水流の乱れが収まったのでオレたちは魔法装置の一部である祭壇の前まで移動してきていた。
「あははは~、ロンドさんたち無茶苦茶ですね~でもカッコよかったですぅ」
マーメイドの仲間たちに悪影響を及ぼしていたと思われる魔法装置の守護者、ソイツを倒せたことに興奮したのか、尾をぶんぶんと振りながらアクアがロンドの周りを泳ぎ回っている。
「ふふ、ボクの活躍見てくれたかな?」
すっかり仲良くなったアクアとロンド。
くそ、アイツらは展開が速いな……手慣れているロンドがうらやましくなる。
「さて……あらためて装置を確認してみましょうか……!? これ、レイル!」
リヴァイアサンもいなくなったので、落ち着いて魔法装置の観察を再開するフィル。
と、なにか気づいたことがあったのか、声を上げオレを呼ぶフィル。
何があったんだ、フィルの元まで泳いで移動したオレが見たのは……。
「これ、まさかオレたちが探している”石板のかけら”か?」
「はい! レンディルとヒューベルで確認した”石板”に掛かれていた術式の続き……ここに書かれている文字はソイツに違いありません!」
「しかもこれは術式の根幹をなすコア部分……これに魔力を込めれば、限定的ですが魔術の増幅効果を得られるようですね」
テニアン王国が保管しており、ヒューベル公国の紹介状を使って見せてもらおうとしていた”世界を分けた超魔術”が記された石板の一部……恐らくこの魔法装置を作った”黒幕”が、王様をそそのかして入手したのだろう。
「そうなれば……爆炎魔術でぶっ飛ばすわけにはまいりませんね……少し手間がかかりますがこれで……」
ぱああああっ
やっぱり爆炎魔法でぶっ飛ばすつもりだったのか……フィルは魔法装置を解析しているのか、目を閉じて手のひらを装置にかざす。
ほのかに放たれたオレンジ色の光は、石板のかけらが埋め込まれた祭壇を包み込んでいく。
そのままの姿勢で30分ほどの時が過ぎる……と、フィルがゆっくりと目を開き、大きく息を吐く。
「……ふぅ、手こずりましたが、これで魔法装置は停止したはずです」
フオオオオオンンッ……
僅かな音を立て、魔法装置の光が消える。
「あ、なんか頭が軽くなった気がします~、皆さん、海上に戻ってみましょう♪」
これで全部終わったのだろうか?
さすがに疲れたのか、ペタンと座り込むフィルに肩を貸しながら、オレたちは海底洞窟を後にするのだった。
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