第5-7話 探索、海中迷宮(中編)

 

 マーメイドたちの住みかだった入江の中央部、表向きはビーチの造波装置として建築された謎の魔法装置。


 ソイツは海中で洞窟の奥へ繋がっていて……ある日を境に変わってしまったという、マーメイドたちとテニアン王国の王様の秘密につながるカギがこの奥にあるかもしれない。


 成り行きとはいえ、オレたちはマーメイドの少女、アクアに先導され、海底洞窟の中へ入っていった。

 アクアの掛けてくれた水中行動スキルのおかげで、地上と同じように呼吸ができるのがありがたい。


「なるほど……元は自然洞窟のようですが、明らかに魔術的に手を加えた跡がありますね」


 さっそくフィルが何かの痕跡を見つけたのか、洞窟の壁を調べ始める。


 確かに、よく見ると岩の隙間に宝玉のようなものがはめ込まれ……入り口から伸びる円柱に向かって、細い糸のようなもので接続されている。


「これは……わたくしたちロゥランドの術式とも違う?」

「それでいてここミドルランドのモノとも違う気がします……むむむ、これはいったい……」


 魔術で調査しているのだろうか、手のひらから魔力を放出したフィルが、宝玉を睨みつけ、首をかしげている。


 どちらの世界の物でもない?

 それなら、コイツを設置した”企業”ってのは何者なんだ?


 言い知れぬ違和感を覚えながら、オレたちは洞窟の奥へと進む。


 と、進むにつれて曲がりくねっていた自然の洞窟は次第にまっすぐになり、洞窟の直径も大きくなっていく。

 これは、なにかあるな……そう思った瞬間、一気に視界が開ける。


「……なっ!?」


 目の前に広がった光景に、オレたちは思わず声を失った。



 明らかに人工的に作られた空間が、奥行き50メートルほどに広がっている。

 海上からここまで続いていた魔法装置の円柱は、広間の真ん中あたりで途切れており、”石板のかけら”のような物が半ば埋め込まれた、50センチ四方くらいの大きさの箱型の祭壇がその下に鎮座している。


 海上ではおぼろげだった魔力の光は、ここまで来るとはっきりと輝いており……円柱から放たれた緑色の魔力は、魔法装置と思わしき祭壇に吸い込まれ、入れ替わるように紫色の魔力の光が立ち上る。



「間違いありません! この術式は精神操作魔術!」


「おそらく、”カロリーキャンセル魔法”などを使って、リゾートに滞在する観光客の生命力を少しずつ吸い取り……この魔法装置で精神操作魔術に変換してテニアン王国中にばら撒いているのでしょう」


 明確な魔力を観測できたことで、コイツの正体が分かったのだろう。

 興奮の面持ちで魔法装置に泳ぎ寄るフィル。


 キラキラと輝く”石板のかけら”を注意深く観察しながら続ける。


「アクアさんがおっしゃった、”企業の社長”とかいう男が術者としたら……直接顔を合わせていないアクアさんやわたくしたちに影響が無いのは頷けます」


「魔術の効果としては微弱ですから……ですが、これほど広範囲に効果を及ぼせる精神操作魔術となると……」


「すごいです~、フィルさん!」

「王様や仲間たちが豹変したのはこの魔法装置のせいだったんですね~?」

「それなら、コイツを壊してしまえば……?」


「はい、精神操作魔術自体は不安定な魔術……魔力を供給してるコイツをぶち壊してしまえば万事解決ですわっ!」


 解決の道筋が見えたためか、興奮してフィルの周りを泳ぎ回るアクア。

 壊すのはいいけど、ここは海中……あまりヤバい魔術を使うなよ、オレはそうフィルに釘を刺そうとしたのだが。


「レイル、上だっ!!」


 ロンドが鋭く警告を発する。



 グアアアアアアアアアッ!



 モンスターの遠吠えが、広間を満たした海水を震わせる。


 広間の奥、天井にぽっかりと開いた穴から飛び出してきた影。

 青い目を爛々と光らせ、鱗に覆われた体長15メートルほどの細長い身体。

 その青白い胴体からは何条もの羽が生えており、先端が薄紅色に染まっている。


 なっ……リヴァイアサン!?


 本来なら深海に棲んでおり、めったに人前に姿を現さないはずのSランク海棲モンスターだ。

 この魔法装置の守護者として誰かが置いたのなら……。


 マズいっ! 

 オレとロンド、フィルとアクアの間には距離があり、即座に連携できる状態に無い。


 急いで間合いを取るんだ、ソイツの得意技は……オレはそう警告を発しようとしたのだが……。



 ゴオオオッ!!



 大きく開かれたリヴァイアサンの口から、膨大な質量の海水が渦を巻いてオレたちを捉える。

 メールシュトロム……獲物の自由を奪い、ついにはバラバラに引き裂く技。


 リヴァイアサンの最大奥義が発動してしまったのだ。


「くっ、間に合うか……「激流の太公望」!」


 オレは腰に差していたロッドを伸ばすと、スキルを発動させる。


 シュンッ!


 渦を巻き始めた海水の流れを割って、フィルたちのもとへと突き進むルアー。


「フィルっ! アクアを捕まえておけっ!」


「!! 分かりましたわっ!」


 オレの指示にフィルがアクアを抱き寄せ……フィルのスカートにルアーがフックしたと見えた瞬間。


 ズゴオオオオオオッッ!!


 彼女たちがたった今までいた場所を、すべてを削り取る海水の渦が襲った。

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