第5-6話 探索、海中迷宮(前編)

 

「ひょえっ? な、波がっ……レイル、手を離さないでいただけますかっ?」


「はいはい、オレの肩を持って」


 ぎゅっ!


「……アイツら自然にいちゃいちゃムーブするよな」


「ですね~、うらやましい……」


 入り江の真ん中にある魔法装置の近くまでやって来たオレたち。


 近くで見る魔法装置はなかなかに大きく、直径3メートルほどあるだろうか、銀色に輝く金属製の円柱が水中から突き出ており……縦に入ったスリットから、次々と波が生み出されている。


 フィルは泳ぎが苦手なので、左手にビート板を持ち、右手でオレの肩に抱きつくような形になっている。


 魔法装置からは絶え間なく波が押し寄せるので、フィルの姿勢は不安定となり、抱きつく腕に力がこもる。

 そのたびに胸のふくらみがオレの背中に当たり……くうっ、先ほどどさくさに紛れて”処理”してきたとはいえ、さすがフィル、なかなかの攻撃である。


「フィルさん~、ご覧の通りコイツは波を起こす魔法装置なのですが、たまにおかしな動きをするんです~」


 アクアがそう言って魔法装置を指さした瞬間、ソイツの先端が淡く緑色に光る。


 ぱああぁ

 すっ……


 淡い光がスリットを通り海中に消えていく。


 10秒ほどがたった後、今後は淡い紫色の光が海中から登って来て……魔法装置の先端でパッと弾ける。


 なにかの魔力が動いているみたいだが……オレにはさっぱり見当がつかない。


「どうだフィル? 何か分かるか?」


 こういう時は専門家の知見を……必死にオレの背中にしがみついている情けない姿を見ていると忘れそうになるが、フィルは大魔導士である。


「ととっ……はい、調べるので少々お待ちください……むむぅ」


 ついにビート板をあきらめたのか、ガシイッと両手両足でオレの背中にしがみつくフィル。


 ああっ……またもやフィルの控えめな胸としなやかな脚の感触がっ!?


 ぷかぷかと浮かびながら、急速チャージされる邪神ゲージに耐えているオレの孤独な戦いを知る由もなく、魔法装置を見たフィルは眉をしかめる。


「最初に取り込まれた魔力は……生命力をつかさどる回復魔術系のモノでしょうか」

「次に装置から出てきた魔力は……ほんのわずかですが、精神魔術系のモノに近いですね」


「特に前者は、先ほどのスイーツバイキングでオジサマが使っていた”カロリーキャンセル魔法”に似ています……むむむ、これはまさか?」


 流石はロゥランドの大魔導士フィルである。

 一目で発生した魔力の属性を見抜いたようだ。


 フィルの解析力に驚いたのはマーメイドのアクアも同じらしく……ばしゃんと水面を叩き、興奮した様子で詰め寄ってくる。


「うおおおおおっ! 流石エルフさんですっ~! じゃあじゃあ、”水中洞窟”のアレも見てください~!」

「「水棲の理◎」っ!」


「「「えっ?」」」


 ドボンッ!


 感激の表情を浮かべたアクアは、水中行動を可能にする?スキルをオレたちに掛けると、一気に海中に引きずり込む。


 うわっ、この子……思ったより力が強い?


「!?!? がぼがぼがぼっ!?」


 案の定、オレの背中でフィルが盛大に混乱している。


「ああ~、大丈夫ですよぉ、勇気を出して海水を飲んじゃってください~それで呼吸できるようになりますから」


 オレたちを引きずりながらあくまでのんびりと説明してくれるアクア。


 ごくん……あ、確かに海水を飲み込むと楽になった……深くまで潜っても地上と同じように視界はクリアだし、普通に呼吸もできる。

 これがマーメイド族の水中行動スキル……浮力のおかげで動きやすいし、水中で暮らす個体が多いのも納得である。


「がぼがぼがぼ……げぷうっ!? はうっ、酷い目に遭いましたわ……」

「レイル、引っ張っていただいてありがとうございます」


 フィルもようやく要領をつかめたのか、お嬢様感マイナス限界突破なげっぷと共にオレの背中から離れる。


 ふぅ、アブない危ない……もう少しだけしがみつかれていたら、急速チャージされた次弾が暴発していたかもしれない。

 あくまでオレは紳士でいたいのである!


「ふふっ、アクアちゃんは積極的だね……ボクそういうのも嫌いじゃないね」

「っと、アクアちゃん、アレかい?」


「はい、そうですロンドさん~」


 ちゃっかりアクアの手を握っているロンドが海中に伸びる金属製の円柱を指さす。


「あの魔力の輝き、ちょっとおかしいですわね……」


 水深50メートルほどの海底、まっすぐに伸びてきた円柱は海底でとぐろを巻き、斜めに開いた海底洞窟の中に続いている。


 そして、海底洞窟周辺がわずかに明滅しているのが観測できる。

 緑……赤……紫……ゆっくりと光るそれは、言い知れない不気味さを醸し出していた。


「アクア、アイツが王様やマーメイドの仲間たちに何か影響を及ぼしてると思うんです~、一緒に調べてもらえませんか?」


 オレとフィル、ロンドは顔を見合わせると互いに頷き合う。


 企業の社長を名乗る、嫌味な男に操られた?マーメイドたちとテニアン王国の王様。

 孤独な戦いを続けて来たであろうアクアの願いを、放っておけるわけはなかった。

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