ラスタリア落とし
ラスタリア王国周辺を完全包囲。
カディ様直筆の書状を、使者がラスタリア国王へ届けた。
それから、待つこと数日。ラスタリア王国の返答は、最悪なものだった。
天幕で返事を待っていると、伝令兵が来た。
「殿下!! ラスタリア王国から返答が……」
「…………」
カディ様は、伝令を聞く前からすでに、内側に怒りを貯めていた。
ラスタリア王国からの書状は血濡れだった。
返答は、「ラグナ帝国軍の蛮行を決して許さない」とのこと。血濡れの書状と共に添えられていたのは……使者の手首だった。
爪が全て剥され、骨の一本一本が金槌で叩き折られていた。
拷問を受け、切り落とされたのだとわかった。
私は口を押さえ、震えた。
「…………」
「で、殿下……───っ」
ゾワリと背中に電流が走ったような気がした。
私と、伝令兵が震えあがる。
カディ様は───静かに、燃えるような殺気をみなぎらせていた。
「よほどの自信があるのか。それとも……まだ俺を見くびっているのか。だが、使者に手を出した時点で終わりだ」
カディ様は立ち上がる。
「全軍、戦闘準備。ラスタリア王国を落とす。一般市民には手を出すな。だが、侯爵以下の貴族は抵抗するようなら始末して構わん。我が軍を舐めた報いを受けさせろ」
「ハッ!!」
伝令兵が天幕を出た。
私はグラスに水を入れ、カディ様に渡す。
カディ様は一気に飲み、息を吐いた。
「すまんな。どうも仲間の死を見聞きすると血が上る……ははは、我ながら器の小さい」
「私は、そうは思いません。カディ様は、とてもやさしいから苦しんでいる……そう感じました」
「……ふふ、そんなことを言われたのは初めてだ」
カディ様は微笑み、私の頭をそっと撫でた。
それが照れくさく、耳まで赤くしてしまう。
「ラプンツェル。お前は俺の副官だ」
「はい」
「俺と共に、ラスタリア王城に殴り込みをかける。いいか、ためらうなよ」
「……はい」
私は、ラグナ帝国軍の剣。
生きる意味をくれたカディ様のために、戦う。
「さぁ、国落としだ。俺を、俺たちを舐めた報いを受けてもらおうか」
カディ様は、力強く微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
戦争が、始まった。
ラスタリア王国軍が展開すると同時に、ラグナ帝国軍が仕掛けた。
だが……ラスタリア王国軍は、すでに準備をしていたかのように、城壁から火矢を放つ。
私とカディ様は、馬で走っていた。
「ラプンツェル!! 火矢に当たるなよ!!」
「はい!! 見えてます!!」
「ハハッ!! それは頼もしい!!」
私は、火矢が見えていた。
馬を操作し、火矢が当たらないルートを走る。
カディ様も同じだった。
私とカディ様は、戦場を駆ける。向かう場所は王城。そこにいるラスタリア国王に敗北を認めさせ、処刑するのが目的。
「殿下を守れぇぇぇ!!」「ラスタリア王国を許すなぁぁぁ!!」
「かかれーっ!!」「全軍、突撃ぃぃぃぃぃ!!」
ラグナ帝国軍と、ラスタリア王国軍が戦っている。
私は、それを見ない。
視るのはカディ様の背中。それ以外はどうでもいい。
「いたぞ!! ラグナ帝国軍のカドゥケウスだ!!」
「討ち取れ!!」
「はっはっはっはっは!! さぁさぁ、かかってこい!! 俺を殺してみろ!!」
カディ様は剣を抜き、放たれる矢を全て叩き落す。
そして、巨大な門の前に到着。馬から飛び降りた。
門はしっかり閉まっている。どうするのか───。
「ぬぅぅん!!」
「えっ……」
爆音がした。
私が見たのは、カディ様は数トンはありそうな門に体当たり。その勢いで、門がごゴゴゴと音を立て開いたのだ。
これには、私も、ラスタリア王国兵も仰天。カディ様は門の隙間に消える。
「───行かなきゃ!!」
私も馬から飛び降り、門の隙間に身体をねじ込んでラスタリア城下町へ。
すでに、カディ様は数十メートル先にいた。さらに、たった数十メートル間に、十名以上の兵士が倒れている。
すると、私の前に、二メートルはありそうな大男が立ちふさがる。
「あぁん? なんだ貴様!!」
「───っ!!」
「女ぁ? しかも、ラグナ帝国軍の鎧だと? ハハハハハ!! ラグナ帝国軍も人材不足のようだなぁ!!」
「…………」
私は無言で剣を抜く。
男は剣を抜き、ニヤニヤしながら向かって来た。
「足を潰して、その後は可愛がってやるよ!!」
「───」
私は男の振り下ろしを半歩ずれて躱し、両手首をそれぞれ十回、両足のアキレス腱を斬った。さらに、男の振り下ろし速度に合わせ、剣を喉に突き立てる。
「カウンター、だっけ」
「こ、ぁ」
「ありがとう、ライ君。これ、使えるわ」
男は崩れ落ち、白目を剥いて死亡───……始めて、人を手にかけた。
「…………全部、後にする。今は、カディ様の隣へ!!」
私は自らを鼓舞し、カディ様の元へ走り出した。
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