強者

「止めろ!! 奴を城に近づけるな!!」

「矢だ、矢を放て!!」


 カディ様は、止まらない。

 馬を奪い、王城へ向けてひたすら走る。

 住民は外出禁止令でも出ているのか、誰もいない。

 向かってくる敵は、ひたすら切る。剣が血の脂で切れにくくなると、カディ様は馬から飛び降り───……なんと、素手で立ち向かった。


「はっはっは!! ラグナ帝国軍最強、このカドゥケウスを止められるものなら止めてみよ!! ぬぅん!!」


 カディ様は、酒屋に並べてあった酒入りの樽を片手で持ち上げ投げる。

 とんでもない怪力。

 私は、ひたすら後ろをついて行くだけで精一杯。背中を守るどころか、カディ様が進んだ後には、敵兵は誰も立っていない。

 

「す、すごい……」

「さぁラプンツェル!! この調子でいくぞ!!」

「はい!!」

「そろそろ後続部隊が城下に入るだろう。それまでに城を攻め落とすぞ!!」

「は、はい……」


 カディ様、とんでもないことを言っている自覚、あるのかしら。

 ほとんど一人で城に攻め入って落とすなんて、歴史上やってのけた武人はいない。

 カディ様はそんなことどうでもいいのか、酒樽を片手でかついで走っている。


「ラプンツェル、火を!!」

「え? あ、はい!!」

 

 私は、ポケットから箱に入れた火種を取り出す。

 そして、見えてきた……ラスタリア王城。

 王城前の正門に、弓を構えた部隊が並んでいた。

 私は剣を抜くが───……カディ様は笑っていた。


「ぬぇい!!」

「え、ええええっ!?」


 カディ様は酒樽を正門に投げつけ、私から奪うように火種を取り、酒樽に向かって投げつけた。

 酒樽は正門に激突しバラバラに、弓部隊の上空から雨のように酒が降り注ぎ、同じく正門にぶつかって砕けた火種箱の火に引火。炎の雨が降り、弓部隊を燃やした。


「はっはっは!! さぁ、行くぞ!!」

「……すごい」


 弓部隊は全身燃え上がり、全員が地面を転がっている。

 私たちはそこを素通りし、いよいよ王城内へ。

 

「さて、ラプンツェル……気付いているな?」

「……はい。います」


 私にもわかった。

 この城の奥、おそらく謁見の間に、強い気配がある。

 

「恐らく、ラスタリア王国の将軍だろう。それと、王……」

「王はいると?」

「ああ。ラスタリアの王は愚王だ。交渉の機会を棒に振るような王だ。逃げ出すこともせず、自軍が勝つとタカをくくって見物しているんだろうよ」

「…………」

「ラプンツェル。将軍はお前が倒せ」

「え」


 カディ様はにっこり笑って歩き出す。

 唖然とする私は、慌てて後を追った。


「わ、私が、ラスタリア王国の将軍を!?」

「ああ。お前なら勝てる」

「で、でも……」

「なんだ? 自国の将軍を倒したくないとでも?」

「違います。私程度の実力で、将軍を倒すなんて」

「できる。ははは、自信を持て」

「…………」


 それ以上、何も言えなかった。

 城の中には精鋭騎士がいたけど……カディ様は全員を切った。

 騎士は王に忠誠を誓っている。王が死ねば騎士は存在価値を見失い、自刃する者がほとんどだとか。だからこそ、カディ様は騎士として王を守ろうと戦いを挑む騎士たちに、一切の手加減をしなかった。

 そして、謁見の間に到着。

 カディ様は、門を開けるのではなく蹴り破った。


「狂犬め……!!」

「やぁやぁ、これはこれはラスタリア王。逃げずに玉座にしがみついている姿は実に滑稽。逃げたら逃げたで、貴様の居場所などないだろうがね」

「ぐ、ぐぐぐ……っ!! おのれ、狂犬!! 大陸統一だと!? なぜそんな無駄なことを!! 四国手を取り合い、発展に尽くせば───……」


 と、カディ様はラスタリア王に手を向け、話を遮った。


「与太話に付き合うつもりはない。一度だけ言う。玉座を明け渡せば、楽に死なせてやる」

「笑止!! ダリオ!!」

「はっ……」

 

 ダリオと呼ばれた黒い甲冑を纏った騎士が、私の身長ほどある大剣を担いで前へ。

 カディ様は、私をまっすぐ見た。


「やれるな?」

「あ、あの……カディ様。私」

「どうした?」

「……不思議なんです。私、ちっとも怖くない」


 私は剣を抜き、カディ様の前に立つ。

 すると、ラスタリア王はゲラゲラ笑いだした。


「はっはっはっは!! なんだその小娘は!? ダリオ、そやつを真っ二つにしてしまえ!!」

「かしこまりました」


 ダリオと呼ばれた騎士は、私を真っ二つにしようと襲い掛かってきた。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………」


 とてもよく見えた。

 目を見開き、剣をしっかり見る。

 ダリオ。彼の動きは───……遅い。ライ君よりも遅いし、イカリオス隊長よりも遅い。当然、カディ様と比べるなんてありえない。

 

「───貴様」


 私は、剣を紙一重で躱した……すごい、もっとギリギリでも躱せそう。


「はァァァァっ!!」

「…………」


 重そうな剣をこうも速く振るなんて、やっぱりこの人は強い。

 でも、見えていた。

 私は紙一重で剣を躱す。すると、ダリオの息が荒くなっていくのが聞こえた。

 

「な、なんだ、貴様!!」

「…………」

 

 私を横に真っ二つにしようと、剣を構えた。

 私はゆるりと動き───……横薙ぎの剣を少しだけしゃがんで躱す。

 そして、剣を抜き、ダリオの喉に突き刺した。


「かっ、かかか……」

「…………」


 剣を抜くと、ダリオは血の泡を吹いて倒れた。

 私は剣を振って血を払うと、血が半月を描く。


「───……美しいな」


 時間にして、約四十秒。

 私は、ラスタリア王国最強の、黒騎士ダリオを倒した。

 後でわかったことだけど……カディ様、私に功績を与えるために、ダリオと一騎打ちさせたんだって。


「さて、ラスタリア王……その椅子から、どうてもらおうか」


 こうして、ほとんど損害もなく、ラスタリア王国はラグナ帝国軍によって制圧された。

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