ラスタリア王国との戦争

 戦争にも、ルールがある。 

 ラグナ帝国軍は、初めこそ各国に《我が国へ下れ》との書状を送った。小国のいくつかはラグナ帝国に下り、帝国の領地は広がっていった。

 でも、従わない国もある。

 カディ様は、従わない国に対して宣戦布告。返答がない国に対して容赦はしなかった。それこそ、返答がないことを前提に、書状を送ると同時に戦闘準備をして進軍するくらいだし。

 そして、ラグナ帝国軍が国を包囲。そこで初めて知るのだ。ラグナ帝国軍の本気と、皇太子カドゥケウスがいかに本気で大陸統一を目指しているのかを。

 素直にカディ様に従う国もあれば、戦いを腹に決めた国もあった。

 カディ様は、どんな国も全力で潰し……征服していった。

 でも、国や国民のために立ちあがった小国も少なくない。カディ様は、真に国を案じる王や文官などはそのまま生かし、ラグナ帝国領として国はそのまま残し、統治を任せたりもしている。

 カディ様の配慮に、真に忠誠を誓う国も出てきている。

 現に、ラスタリア王国へ進軍している兵士たちは、小国から派遣された兵士だ。混成軍では問題がよく起きると聞いたけど……今のところ、全くない。

 全員が、カディ様の夢───……大陸統一に向かって進んでいる。

 私は、そんなことを考えながら手綱を握っていた。


「ラプンツェル」

「は、はい」

「顔色が悪いな。大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

「そうか。間もなく、ラスタリア王国へ到着する。王国を完全包囲し、最終通告を出す」

「はい。あの、カディ様……進軍の速度ですが、少し遅くありませんか?」

「問題ない。ふふ、実はな……三国落としは、同時に行う」

「えっ」

「イカリオス、オルトロスと事前に話したのだ。三国落としは、同時刻に始めるとな」

「なんと……」


 すごい。

 同時に三国を落とすなんて、前代未聞だ。

 これが成功すれば間違いなく、カディ様の名前は歴史に残る。


「ラプンツェル。大陸統一はあくまで通過点だ。統一後のことも考えておけよ?」

「か、考えておけと言われましても……スケールが大きすぎて、何も浮かびません」

「はっはっは!! なら、いくつか案を用意してやる。まずはこのまま俺の騎士として国に仕えるか? れとも、報奨金をもらって家を買い、田舎でのんびり過ごすのも悪くない。それと領地、前にも話したがクレッセント領地をお前にやろう。ふふ、馬鹿な両親や妹に復讐するのはどうだ? ああ───……俺と結婚して王妃になる、というのもある」

「え」

「ふふ、帝国の皇太子にして英雄カドゥケウス!! 銀の女神に愛された英雄!! 戦場で出会った美しき銀の戦乙女と恋に落ち、互いに結ばれる───……どうだ? 大陸中の脚本家が大騒ぎする内容だ。劇場は大盛り上がり間違いなしだ!!」

「…………」


 び、びっくりしたぁ。

 なんだ、冗談か……カディ様と結婚。王妃……ふふ、夢みたい。

 きっと、カディ様は私の緊張をほぐそうとしてくれたんだわ。

 じゃなきゃ、私みたいな他国の衛生兵が、王妃なんて。


「カディ様、ありがとうございます」

「む」


 私は強く手綱を握り、前を向いた。

 もう緊張していない。カディ様の剣として、ラグナ帝国のために戦おう!!


「…………冗談ではないのだがな」

「え?」

「いや、なんでもない」


 カディ様がポツリと呟いた気がしたけど……気のせいよね?


 ◇◇◇◇◇◇


 ラグナ帝国軍は、ラスタリア王国を包囲。

 使者を送り、完全降伏するようにと書状を送った。

 でも、返答は……『ラグナ帝国軍に屈服することはない』というものだった。

 使者は殺され、遺体に書状が添えられ戻ってきたのだ。  

 これに、カディ様は静かに怒り、ラスタリア王国との戦争が始まった。

 夜明けと同時に、全軍突撃という、カディ様の必勝パターンだ。


 私は、カディ様と一緒にラスタリア王国城下町を抜け、王城を落とす。

 全てが初めての戦い。私は、私にできることをやる。

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