65. 痴漢男、シロム
(シロム視点)
「へ、変態!」
「痴漢!」
「犯される!」
「誰か助けて~~~~。」
女性達が一斉に叫ぶ。一方僕は焦りまくっていた。どうしよう、どうしよう、どうしよう....。
思わず彼女達の服を神力で元に戻そうとして思い留まる。ひとまず攻撃は止まったがマジョルカさんが捕らえられたままだ。
「マ、マジョルカさんを解放したら服は元に戻します。」
「このレイスは我らの獲物だ。横取りは許さん。」
1人が強い語調で言い放った。獲物? まるで狩りでもしている様だ。
「レ、レイスは人間の魂です。貴方達は人間を狩るのですか? そんなこと許されません。」
「我らは神のご指示に従っている。正義は我らにあり。関係無い者は黙って......」
だが彼女の反論は途中で途切れた。彼女の目の前に巨大な足が現われたのだ。実体化したウィンディーネ様だ。
「 「 「 「キャーーーーーーッ! 巨人!」 」 」 」
ウィンディーネ様を見た女性達は一目散に逃げ出した。
「待ってください! 服を.....」
そう叫びかけたが、もう声が届かない所まで離れていた。幸い何も持っていない様だから、マジョルカさんが捕らえられた道具は元の場所に残っているはずだ。でもこんな人里離れたところで服も靴もなく彷徨ったら遭難するに決まっている。
「ウィンディーネ様どうして? 」
「契約精霊にはご主人様の危機が分かります。急いで駆けつけました。」
精霊と契約すると心が繋がるとチーアルが言っていたから、僕の慌てふためいた心を感知されたのだろうか...。
「私も居るわよ。」
と僕のすぐ横でチーアルも実体化する。
「チーアル、良い所に来てくれた。あの人達に服を届けてくれ。今復元するから。」
そう言いながら彼女達がいた場所に杖を向けて驚いた。1人残っている。その女性はまるで先ほどの道具を守る様に道具の前で両手を広げていた。長い褐色のストレートの髪が辛うじて胸のふくらみを隠している。思わず目を逸らす。
杖に向かって服を復元してくれる様に願うと、彼女達の服や靴、荷物を入れていた袋の断片が時間をまき戻すようにくっ付き、十数える間にすべてが復元された。
「チーアル、頼むよ。」
「結界がなかったら殺されていたかもしれないのよ。相変わらず甘いんだから。まあシロムらしいけどね。」
チーアルがそう言うと逃げ出した女性達の服や靴、それに女性達が持っていた荷物が空中に浮かび上がり、チーアルの後を追って飛んで行った。
だが、女性はまだひとり残っている。どうしよう....。
「ご主人様、宜しければこの者は私が始末させていただきます。ご主人様を害そうとする者に遠慮は致しません。」
ウィンディーネ様の言葉に寒気を覚えた。相当怒っている様だ。
「ウ、ウィンディーネさん、そこまでしなくても大丈夫です。僕は何ともありませんから。」
「何を仰います。この者はご主人様を射殺そうとしたのです。許されることではありません。」
「だ、大丈夫ですから。それよりそこにある変な道具にレイスのマジョルカさんが捕らえられています。解放してあげられないですか?」
「これでございますか?」
ウィンディーネさんが道具に手を伸ばす。
「止めて! ご神器に手を出さないで!」
女性はそう言いながら立ち上がり、ウィンディーネさんの手から守る様に道具に覆いかぶさる。まだ若い、少女と言っても良いだろう。
だが、ウィンディーネ様はそんな少女の抵抗をまるで気にすることなく、縋り付く少女ごと道具を持ち上げ僕の方に持って来ようとする。
次の瞬間、ウィンディーネ様の身体が一気に無数の妖精に分解した。更にその妖精達が次々と少女の持つ筒に吸い込まれてゆく。少女が道具を作動させたのだ。
当然の事ながら、ウィンディーネ様が妖精に分解した時点で空中にあった少女は道具と共にかなりの高さから地面に落下したのだが、気丈にも地面に落ちても筒を抱え続けている。
「ウィンディーネ様!!!」
僕は全身全霊で叫ぶが返事は帰って来ない。そしてウィンディーネ様が立っていた空間にまるで霧の中から現れる様にして巨大な岩が出現した。真下にあの少女がいる!
身体が無意識に動いていた。僕は全速力で少女に駆け寄りその上に覆いかぶさる。次の瞬間、僕と少女の真上に岩が落ちて来た。
ドガーーーーン!
岩が地面に激突した音が辺りに響き渡る。おそらくあの岩はウィンディーネ様が見つけて下さったオリハルコンを含んだ岩なのだろう。亜空間に収納してくださっていた岩が元の空間に戻されたのだ。
恐る恐る目を開けると目の前に恐怖に震える少女の顔があった。いきなり岩に押しつぶされそうになったらショックを受けるに決まっている。幸い杖を使って張った結界のお陰で僕達は潰されていない。僅かだが地面との間に空間ができている。
「ち、痴漢男! キャァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
少女は僕と目が会った途端大声で悲鳴を上げた。どうやら恐怖の対象は岩ではなく僕だった様だ。何しろ、僕は一糸纏わぬ少女の身体に覆いかぶさっている、その上偶然だが左手は彼女の胸のふくらみの上にある。
僕は焦りまくって彼女の上から退こうと身体を起こしたが、結界に強かに後頭部を打ち付けただけだった。普段は少し弾力のある結界が今は鉄の様に硬く張りつめている。今にも岩の重さに抗しきれずに弾けそうな気がする。その上僕達がいる空間は狭くて、上にも左右にも身体をずらす余裕はない。
「とにかく外にでましょう。動けますか?」
そう問いかけると少女は苦痛に顔を歪めながら首を振った。先ほど落下した時に骨折等をしていても不思議ではない。ならば僕が運ぶしかないだろう。
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