64. 謎の襲撃者
(シロム視点)
食事が終わると、僕とチーアルそれにウィンディーネ様はそれぞれ別方向に空に飛び立つ。僕も杖を使えば空を飛ぶことは出来る。もっともそれほど早くは飛べないが、探し物をしている今はその方が都合が良い。
アーシャ様から頂いた水晶は、時々弱々しく光る。この辺りの岩にはどれも微量のオリハルコンが含まれている様だ。でももっと強く光らなければだめらしい。僕は水晶を抱えて岩から岩へと飛び回っていた。
だが、大きな岩を飛び越えた時、地上に人間の一団が見えた。僕は慌てて岩の上に身を隠した。流石に空を飛んでいるところを見られたら不味い。残念ながら預言者の杖は同時に複数の事は出来ない。空を飛びながら身体を透明化することは出来ないわけだ。こんな人里から離れたところには誰もいないだろうと思って油断していた。
岩の影から覗き見ると、人間は全部で5人。全員が黒っぽいローブを着てフードを頭に被っている。何人かが見たこともない形の道具を背中に背負っている。幸い僕には気付いていない。
5人はお盆の様な道具を見ながら何やら話し合っていたが、その内にひとりがある方向を指さした。これから向かう方向が決まった様だ。僕は岩の上から彼らが去ってくれるのを待つことにした。
だけど彼らは立ち去ろうとしない。1人が背中に背負っていた大きな道具を地面に降ろし、筒の様な物の先を先ほど指さした方向に向けると赤い光が広範囲に照射された。僕は驚いて岩から顔を引っ込めた。
あんな道具は見たことが無い。武器だろうか? だったら見つかると攻撃される可能性もある。
<< キャ~~~~~~~ッ >>
突然悲鳴が響き渡る。念話だ! 思わず岩から顔を出すと、光が照射された方向の岩からモノトーンの人影が出て来るところだった。レイス?
マジョルカさん! 間違いないレイスのマジョルカさんだ。おそらく岩の中に入り込んで隠れていたのだろう。あの赤い光が何なのか分からないけれどマジョルカさんを苦しめているのは間違いない。彼女は数歩歩いてから地面に倒れ伏した。黒いローブ姿の人間達は赤い光を出した道具を構えたまま、マジョルカさんに向かって慎重に歩き出す。
僕は咄嗟にマジョルカさんの周りに結界を展開した。お椀状の結界がマジョルカさんを包み込み赤い光を跳ね返す。ローブ姿の人間達は驚いたように光を止め、ひと塊になった。ここからは聞こえないが、恐らく何が起こったのかと話し合っているのだろう。
チャンスだ。そう判断した僕は岩の上を飛び立ち人間達の上を飛び越えてマジョルカさんの前に降り立った。
「や、止めて下さい。このレイスは僕の知り合いです。」
そう言ってマジョルカさんの前で両手を広げる。恰好をつけているが心臓はバクバクだ。大抵の攻撃は結界で防ぐことが出来るだろうが、結界を張っている間はこちらからも攻撃は出来ない。結界だって張っていられる時間には限界がある。膠着状態になったら数の少ないこちらが不利だ。
<< マジョルカさん、大丈夫ですか? >>
<< 助けて下さったのですか!? ありがとうございます。>>
(( え? ええっと誰だったっけ? 見覚えはあるんだけど....))
<< シロムです。先日は失礼しました。>>
<< もちろん覚えてますわ。>>
(( え? シロムって....あのヘタレ? まさか...一応格かっこよくみえる。))
マジョルカさんからは直ぐに応答があったが、相変わらず変な副音声付だ。そう言えば最近はましになった様だけど、アーシャ様と初めて会った時思考が念話となって漏れていると指摘された。ひょっとしてマジョルカさんも同じなのかも。
一方でローブ姿の人間達からは何の反応もない。どうしようかと考えた時、先ほどの赤い光がもう一度襲ってきた、ただし先ほどは広範囲に広がっていた光が細く絞り込まれている。光りは結界を貫き僕に命中した。だけど驚いたことに僕には何のダメージもない。
<< マジョルカさん、こいつらは何者ですか? >>
<< 分かりませんわ。最近しつこく追いかけて来るのです。>>
((本当に何者なのかしら。しつこいったらありゃしない。))
マジョルカさんと話をしている間に今度は矢が射かけられた。5人の内3人が弓を手にしている。もちろん弓矢でこの結界は破れない。
「む、無駄です。諦めて帰って下さい。」
心からそう思う。預言者の杖は一度にひとつの事しか出来ない。結界を張りながら空を飛んで逃げることは出来ないのだ。だが次の瞬間膠着状態が破れる。
<< キャ~~~ >>
突然マジョルカさんの悲鳴が頭に響く。敵が別の道具を持ち出し、その筒をこちらに向けた途端マジョルカさんの身体が宙に浮かぶ。そのままマジョルカさんは筒に吸い寄せられる様に宙を進んで行く。
<< 助けて~ >>
<< マジョルカさん! >>
思わず手を延ばすが、僕はレイスのマジョルカさんに触れることが出来ない。マジョルカさんは必死に抗っているが、結界も通り抜けて筒の中に吸い込まれた。
しまった。あの謎の道具には結界も無効だ。このままではマジョルカさんを連れ去られてしまう。
僕は咄嗟に傍の岩陰に飛び込んだ。結界を張ったままでは相手を攻撃出来ない。ここならしばらく矢を防ぐことが出来る。結界を解いた僕は攻撃に転じた。神力で道具を吊るしているベルトや弓の弦を切る様に念じる。すぐに矢の跳んで来る音が止んだ。
岩陰から首を覗かせて様子を見る。弓の弦をすべて断ち切ったのでこれ以上矢を射ることは出来ないはずだ。だがやり過ぎた。神力はローブを始めとする衣服を縫い合わせていた糸もすべて断ち切った様だ。僕を攻撃していた人間達のローブが縫い目から個々の布に分解して地面に落ち、更に下に着ていた服も同様にバラバラになって落ちて行く。
「 「 「 「 「キャ~~~~~ッ」 」 」 」 」
甲高い悲鳴が辺りに木霊した。同時に僕は強い焦りに襲われた。ローブに隠れて分からなかったが、相手は全員若い女性だった様だ。瞬く間に彼女達は一糸纏わぬ状態となり、悲鳴を上げながら身体を隠すように地面に座り込んだ。
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