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 あれから1年が経ちました。


 澄んだ水色の空に、白い丸い月が浮かんでいます。今日は、あなたと約束した日です。

 おしゃれをして、あなたに逢いに、あの海に行きます。

 あなたが好きだと言ってくれた長い黒髪はもう無いけれど、あなたならきっと、そんな私も素敵だと言ってくれますよね。少し短くなった髪を揺らして、あなたのくれたネックレスとペアリングを身につけて、約束の場所へと向かいます。


 あなたが『生きて』と言ったから、私は少しだけ強くなりました。きちんと自分の足で立って、少しずつでも歩いています。

 だから、あの大きな手で、ぎゅっと抱き締めてくれますか?

 久しぶりにあなたに逢えると思うと、嬉しさの反面、少しだけ緊張もしています。



 「美羽」


「圭ちゃん!」


 1年、待ち焦がれたあなたが今、目の前にいます。あの頃と、何も変わらないままのあなたが。優しくほほえむあなたが。

 思わずあなたに駆け寄りました。


「圭ちゃん…」


そう、あなたの名前を呼んだ瞬間、嬉しくて、愛おしくて、涙が溢れて止まらなくなりました。逢いたくて、逢いたくて、私は今日まで頑張ってきました。

 ふわっと、海のような香りがしました。


「美羽、頑張ったね」


 私は抱き締められていました。あなたは、私が大好きな大きな手で抱き締めながら、優しく囁きます。大好きなあなたに包まれて、改めて、あなたを愛おしいと感じます。


 白月の下で、愛しいあなたの温度を感じて、匂いを感じて。私は世界でいちばんの幸せを今、感じています。

 今日が終わったらまた1年、あなたには逢えないけれど。これからまた1年、頑張ることができます。そうして1年ずつ、時を重ねていきます。いつか、あなたと約束した日が来るまで。


 私が、私の人生を精いっぱい生き抜くまで。


 あなたとの約束を果たすまで。

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