6
「美羽、」
優しくて甘い声で、あなたは私の名前を呼びました。それから、優しく私の頬に手を添えて言います。
「そろそろ、お別れだよ」
そうして私の額にそっと口付けしました。
「…約束、だからね」
私はそう言って小指を立てて左手をあなたの前に出しました。あなたはそれを見てにっこり笑って、左手の小指を絡ませました。
薬指には、あなたがいなくなる前にふたりで選んだペアリングが光っていました。私にとっては、何よりも大切な宝物です。
本当は笑顔でいたかったけれど、どうやらそれは難しいみたいです。せめて今だけでも泣かないでいよう、と思った私は、込み上げるものを我慢して唇を噛み締めました。そんな私を見て、あなたは私を優しくぎゅっと抱き締めて、それから言いました。
「美羽、目、閉じて」
その声は優しくて、でも切なくて。
本当は目を閉じるなんて嫌でした。目を閉じたらあなたと離れなければならないと、わかっていました。けれど、あなたを困らせたくなんてありませんでした。
唇を噛み締めて、しばらくあなたの顔をじっと見つめました。それからそっと目を閉じました。
「約束。絶対に、逢いに行くよ。来年、この季節に。白い丸い月が浮かんだら、あの海に。絶対に、美羽に逢いに行く」
一瞬、唇に温度を感じて、その温もりはすっと消えていきました。私は目を閉じたまま、涙が頬を伝うだけでした。
気が付くと私はベッドの上でした。どうやら私は病院に運ばれて、しばらく眠っていたようでした。
あの時、たまたま通りかかった人が、海に入って行く私を見つけて助けてくれたのだそうです。
私はもう、無理にあなたの傍に行こうとはしません。あなたが悲しむ顔は見たくないから。何より、あの時、あなたと約束をしたから。
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