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「これからも生きて。何十年か経って。それから逢いに来てくれたら、それでいいんだ」
何十年も、なんて。寿命なんて待っていたら私、おばあちゃんになってしまうかもしれません。そうしたら、あなたにはとてもつりあわなくなってしまいます。そんなのは嫌でした。
何より今、あなたの傍にいたいのです。
「そんなの、嫌… おばあちゃんになっちゃう…」
それはとても小さな声でした。自分の声なのに、自分にも聞こえないくらいの、小さな声。
それでもあなたは、そんな声ですらきちんと聞いてくれます。
「おばあちゃんになっても、どんな姿でも、美羽は美羽だよ。僕の大好きな、美羽のままだよ。僕はどんな美羽でも、たとえばこの先生まれ変わって姿かたちが変わったとしても。何度でもキミを見つけ出して、キミに恋をするから」
あなたは少し屈んで、私の顔を覗き込みながら優しく言いました。
「だから、ちゃんと生きて。1年にたった1度だけだけど、美羽が僕を覚えていてくれる限り、僕は絶対に美羽に逢いに行くから」
納得は、やっぱりできませんでした。けれど、あなたがくれた言葉がとても嬉しかったのです。あなたが私に嘘を吐くわけもないとも思いました。
だから、私はまた、決めました。
「本当に、逢いに来てくれる?」
もう少しだけ、あなたのいない世界でも、生きていくこと。あなたがいない世界は暗闇でしかないけれど、あなたが言ってくれた、1年に1度の約束の日を一筋の光に、生きてみようと思いました。
それが、あなたの望みだから。
「もちろん。絶対に、逢いに行くよ」
「…じゃあ、頑張る」
少しだけふてくされながら言うと、あなたはようやく私が大好きな笑顔を見せてくれました。
「ん、いいこだね」
そうして、頭をぽんぽんとしてくれました。それから、まるで壊れ物を扱うように、とても優しい手付きで私の髪を撫で、一束掬って口付けました。
私はまた涙が止まらなくなりました。悲しいのと、嬉しいのと、愛しいのと。いろんな感情が一度に溢れてきて、自分の感情なのに、押さえることができませんでした。あなたにしがみついて、顔を埋めて、あなたの香りを吸い込みました。海のような、あなたの香りです。
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