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「美羽、僕は美羽に、生きていて欲しいんだ。僕の分も。一生懸命、生きて欲しい」
あなたの優しい声がします。その声を聞くと、いつも安心していました。私の大好きな、あなたの声です。
「精いっぱい生きて、いつかおばあちゃんになって、美羽の人生を生き抜いて。それから逢いに来て欲しいんだ」
安心するはずのあなたの声が、“今の私”を否定するのは何故でしょう。私にはわからないのです。
「なんで今じゃ駄目なの? 私、…」
「美羽」
あなたの服をぎゅっと握ったまま、思わず声に出した私を、低い声であなたは制しました。その声に心臓がひとつ大きな音を立て、口を噤みました。俯いたまま。
「どうしても、逢いたいなら、…」
先程とは違う、いつもの優しい声であなたは言います。
「1年に1度だけ、逢いに行くから。こんな季節の、白い丸い月が見える日に。あの海に、逢いに行くから」
そうしてあなたは私の頭を撫でました。それはとても好きなことだったはずなのに、悲しくて仕方がありませんでした。
せっかく逢えたのに。逢いに来たのに。あなたは喜んではくれなかったから。
悲しくて、また涙がこみ上げてきました。それを察したのか、あなたは私の手を優しく包み込みました。それから、優しく話しかけます。
「僕は、美羽が生きていてくれたら、それでいいんだ。それが幸せなんだ。僕はもう美羽の傍にはいられないし、美羽が泣いていても涙を拭いてあげることもできない」
そうしてあなたは、いつの間にか私の頬を伝っていた涙をそっと指で掬いました。
「だけど美羽なら大丈夫。僕が傍にいなくても、例えば美羽が僕のことを忘れても。僕は見えなくてもずっと見守っているよ」
私は溢れる涙を止めることができずにいました。私、あなたに名前を呼ばれることが大好きなんです。
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