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 私は海に来ていました。あなたと出会った、思い出の海です。あなたが一番好きな場所だと教えてくれた、あなたがいなくなった、あの海です。

 季節外れの海は人がいなくて、ただ寂しく波が打ち寄せるだけです。まるで私の心みたいに静かで。けれど波の音だけはどこまでも響いていました。


 私は、波打ち際をゆっくりと歩いてみました。半年前までは、ふたつの足跡が並んでいたのに。今はひとつしかありません。

 ふと振り返ると、打ち寄せる波が私の足跡を消していきました。私がこうして歩いていることなんて、無かったかのように。あの日、あなたがここにいたことを消したのと同じだと思ったら、涙がひとつ零れました。


 海の方を見て目を閉じ、それから深く息を吸いました。そして、ゆっくりと息を吐き、少しずつ前に進みました。

 足首まで浸かり、膝まで浸かり、太股まで浸かると、とても冷たくて決心が鈍りそうになりました。

 でも、あなたの傍に行きたいから。私は一歩、また一歩と歩みを進めます。


 「圭ちゃん、今、私も行くからね」


 そうして、深い深い、あなたが消えた暗い海へと向かいます。あなたがくれたネックレスを両手で握りしめて。

 ただあなたに逢いたいという気持ちだけが、私の足を動かすのです。



 なんだか目の前がぼんやりとしてきました。だんだんと意識がはっきりしなくなってきたような気がします。

 でも、これでようやくあなたの元に行けるのですね。そう思うとなんだか嬉しくて、私の心臓がひとつ、大きな音をたてました。


 半年振りに逢うあなたは、あのときのままなのでしょうか。逢ったらまた、あの大きな手で、私をぎゅっと抱き締めてくれますか?


 私、あなたがいてくれたら、他に何も要りません。

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