第5話:サクラ

(なんじゃこりゃあ?!)


 自分のステータスを見た俺の、偽らない気持ちが口を突いてでた。

 だが幽体の俺が口にした事など誰にも伝わらない。

 俺の言葉が伝わらないのはいいのだが、絶対にやらなければいけない事がある。

 サクラに手を引っ掻かれた女性魔術士を助けようとして、騎士や魔術士が攻撃しようとしているのが見えるのだ。

 サクラを護りたいという想いが俺の心の中で爆発する。


「止めろ」


 幽体離脱していたはずが、サクラを庇って抱きしめていた。

 反社に襲われた時には間に合わなかったが、今度は間に合った。

 生き返ったサクラをもう2度と殺させはしない。

 また殺されてしまう事になっても、今度こそサクラだけは護る。

 そう想っていたのだが、そんな事にはならなかった。


「止めろ、この人には手を出すな。

 お前達の性根が悪いから、猫が主人を護ろうとしたのだ。

 お前達が本気でこの人を助けようとしていたのではなく、俺達に媚びるために助けるフリをしている事を、猫は見抜いたいたのだ。

 下がれ、腐れ外道!」


 学生達が俺とサクラを護ろうと円陣を組んでくれている。

 東西南北のどの方角から攻撃されても対応できるようにしている。

 サクラを胸に抱いて丸まりながら、学生達の勇気に心から感謝した。

 世の中にはこんな素晴らしい子供達がいるのだ。

 そんな子供達をこの世界の連中に利用させたくないと強く思うのだが、俺がそんな事を想っても何の役にも立たない。


 さっき見た俺のステータスは素晴らしいモノだったが、使い方が分からない。

 そもそも槍や剣を持った相手に戦う勇気などない。

 それに、この身体に入ってみて分かったが、この身体は死んだままだ。

 生きていた時とは身体の感覚が決定的に違う。

 ヌイグルミの中に入って動かしているような感覚だ。


「お待ちください、勇者殿。

 全ては我らの不遜でございました。

 知らぬこととはいえ、無理矢理この世界に召喚した事は無礼千万。

 しかも召喚のせいで仲間を殺してしまうなど、謝って済む問題ではありません。

 勇者殿が激怒されるのも当然でございます。

 日頃から可愛がっているペットが、主人を護ろうと攻撃するのも当然です。

 バカ者共が、その程度の事も分からぬか、控えよ!」


 顔全体に白く美しいヒゲを生やした老人が、多くの護衛を引き連れてやってきた。

 王冠を頭に頂き、手には王笏を持っている。

 どう考えてもこの国の王にしか見えない。

 その国王に厳しく叱責されて、王孫と側近達はその場に片膝をついて頭を下げた。

 

「「「「「申し訳ありません、国王陛下」」」」」


 王孫と側近達が息の合った謝罪の言葉を口にする。

 どう考えても普段から何度も謝っているとしか思えない。


「勇者殿、仲間が亡くなられたと聞いて急いで謝罪に来させてもらったが、どうやら生き返られたようでなによりです。

 とは言え、こちらの手違いでとんでもない迷惑をおかけした事に変わりはない。

 お詫びをさせていただくにしても、まずは休んでいただきべきだと思う。

 ただ我らが想定していたよりも多くの勇者殿に来ていただくことになり、準備していた部屋だけでは5人の方々を十分にもてなせない。

 かと言って別々の部屋に入って頂いては、さらに疑われてしまう。 

 そこで勇者殿達に選んでいただきたいのです。

 今日だけは5人同じ部屋に休んでいただくか、別々の部屋で休んでいただくかを」

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