第6話:話し合い

 学生達は一緒の部屋を望んだ。

 本当なら見捨てても誰もとがめない、俺まで一緒に助けようとしてくれる。

 だから5人と1匹が一緒の部屋に案内された。

 ありがたくて、孫でもおかしくない学生相手に涙が流れそうになった。

 実際幼馴染の孫は学生達よりも年上、とうに成人しているはずだ。


 案内された部屋は予想通りとても広かった。

 寝室も広ければ食堂も居間もとても広い。

 寝室には、巨大な天蓋付きのベットが置いてある。

 居間のソファーもシングルベットよりも広く長く、大人でも十分眠れる。

 侍従や侍女が控える部屋もあれば、浴室もトイレもある。

 トイレは勇者用と従者用の2カ所もある。

 残念なのは浴槽が西洋式のお湯を入れるタイプだという事だ。


「俺は控室にいるから、最初に4人で話し合ってくれ」


 部屋に案内されて1度は一緒に居間に入ったが、対人恐怖症の俺には、恩人だと分かっていても一緒にいる事が耐えられなかった。

 だから身勝手だとは重々承知していながら、1人になる事を望んだ。

 それに今直ぐ試したい事があった。

 ラノベやアニメの定番が通用するか試したかったのだ。


「分かりました、私達の事に巻き込んでしまったようで申し訳ありません」


 謝ってもらうような事は何もない。

 そもそも巻き込んでくれなければ、そのまま死んでいたのだから。

 俺はともかくサクラを助けてくれたことには感謝しかない。


「いや、俺の方こそ助けてもらって感謝しかない。

 ただ俺は人間が怖くて、恩人である君達と一緒にいるのも辛いんだ。

 だから君達が話し合ってくれた後で、結果を教えて欲しい。

 その結果とは別に、俺の望みを言わせてもらう。

 それと、この国の連中と話し合う時も、俺は陰から聞かせてもらう。

 情けないが、怖くてたまらないんだ」


 俺は勇気を振り絞って学生達と話した。

 信じられないくらい善良な子達だと分かっていたから、俺も話せたのだと思う。

 そうでなければ、何も話すことができずに、寝室かトイレに逃げ込んでいたかもしれない。


 50を越える初老のおっさんが、高校生に頼って陰に隠れる。

 あまりの情けなさに涙が流れそうだ。

 だがそれが今の俺だ。

 母と弟と親族に騙されて心を病んだ俺に偽らない状態だ。


「分かりました、大丈夫ですよ、気にしないでください。

 あんな目にあった直後に、マンガのようにこんな所に連れてこられたんです。

 怖くなって当然だと思います。

 僕達は子供の頃から古武術を修行してきたので対応できていますが、普通はパニックになって当然です。

 ただ、お名前だけは教えていただけませんか。

 どうお呼びしていいか分からなくては困りますから。

 僕は真田一朗と言います」


「俺は本多勇星と言います」


「みなみはね、霧隠みなみと言うの」


「私は矢沢ゆりと申します」


 恩知らずな、とんでもない要求をした俺に対して、とても穏やかに、何のわだかまりもなく、笑顔を浮かべて名乗ってくれる。

 その笑顔を見ていると、自分の弱さと卑怯さに吐き気がしてくる。

 またチックと円形脱毛症が再発するかもしれない。

 

「俺は猫屋敷翔平と言います。

 日本でもここでも助けてくれてありがとう。

 ごめん、もう耐えられない、向こうに行かせてもらう」


「ニャオォ」


 俺はサクラを抱いて控室に向かった。

 サクラはうれしそうな声で鳴いてくれるが、俺は情けなくて涙がでている。

 昔の俺なら、もう少しマシな対応ができたのに。

 せめて他の事で、表にでる事なく陰から手助けできればいいのだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る