第7話 6人いる!

目が覚めたらアイネは自室のベッドの中にいた。

いつ着替えたのかちゃんとフリルだらけの寝巻き姿ではあるが、まだ頭がフワフワしている。

アイネはまず最初に


「なあんだ、夢オチか〜」


と思うことにした。

夢にしてしまえば実に清々しい。アイネはにっこり微笑んだ。

道化師、ムサ強い魔神、おじさまボイスの拳法イタチ、イタチが師匠のジェラール…

夢だとしてもナンセンスな悪夢だ。早急に忘れた方が良い。


ふいに扉がノックされ、扉越しに声が聞こえる。

「アイネ様。本日はテストの発表日でございます。午後は広間においで下さいませ」

宮殿の女官が知らせに来たのだ。


「………そっか。もう今日が発表日か」



広間には乙女達が集まっていたが、その殆どが暗い面持ちで、さめざめと泣いている子もいた。


おそらく俺と同じく宿木すら見つけられなかったに違いないな。


アイネの記憶だと、この段階では虚偽の報告をしない限り脱落しないはずだった。今回のシナリオはあくまでヒロインとライバルが注目されるためにあるのだから。



「それでは審査を行う。ドリームフェレット達は出て来なさい」


ジェラールの厳かな声が広間に響くと、奥の扉から何匹ものフェレットがフヨフヨと飛びながら登場した。乙女の群れから

「かわいい〜!!」

と歓声が上がる。


「フェレット達は自分が受け取った歌の主を見つけ次第連れて戻ってくる様に。選ばれた者が今回の合格者だ」


フェレットは多幸感のある可愛さを振りまきながら候補者達の間を飛び回り選ばれし少女を探す。拳法フェレットとはえらい違いだ。


「ぱわわ〜ぼくはこのレディです!」

1匹目の水色のフェレットはやはり悪役令嬢アドリアーナの手を引いている…というか紳士然とエスコートしている。

「貴女のフルオーケストラを背景に歌うアリア…完璧でした!」

そんな事してたのか。勝ち目がない。


「ぽぽぽ〜♪ぼくの天使は君♪」

ピンク色のフェレットが1人の乙女の手を引いて中心に飛んできた。やはり真正ヒロインのマドレーヌだ。マドレーヌはキョトンとしながらも嬉しさに頬を赤ている。フェレットがにっこり笑う。

「とっても綺麗な澄んだ歌声、しっかりぼくに届いたよ♪」


そして次々とフェレットに連れられて少女達が前に集められてゆく。

そして最後のオレンジ色のフェレットが戻った時、選ばれし乙女の5人が出揃った。


悔しそうにする者、憧れの眼差しを向ける者、様々な反応が広間を覆っていたが、自然と拍手が沸き起こる。


まあ納得のオーラと家柄だよな。うん。


……と他人事でぼんやり眺めていたアイネの手が徐に引かれた。


「…え!?」

「ゆよ〜ん◎ぼくはこの子〜◎」


こいつ…あの夢に出てきた拳法フェレットじゃないか!明らかにナイスミドルが無理に裏声を出している声が気持ち悪い。

目の前でパステルパープル色のイタチがウインクをしてみせた。

いや、共犯だと思われるからやめてくれ!

アイネは抵抗する間もなくフェレットとは思えない力でほぼ吊り上げられながら広間の中央に躍り出る。

明らかにタイミングを外した6人目の登場に拍手が疎らに鳴り止み、一斉にアイネへ視線が注がれ、妙な間が訪れた。


周りを見ると明らかに運営側の士官やイケメン達が「聞いていない」「1匹多くないか?」という戸惑いの表情を浮かべザワついている。

「あれれ〜♪もしかして…にせものがいるのかな?」

フェレット達にも不穏さが伝わった様だ。

フェレット達はオロオロ浮遊しながら挙手を始めた。

「ぼくパッケ!」

「ぼくピッケ♡」

「ぼくプッケ…」

「ぼくペッケ⭐︎」

「ぼくポッケ♪」

「ぼくユッケ◎」

「おかしいなあ…みぃんなフェレットだね〜…」

「誰がニセものかわかんないや〜⭐︎」

いや、1匹絶対違うのがいるから!生肉がいるから!!

アイネは叫んで全て終わりにしたい気持ちになったが、ひとまずここでは「何も関わりのない巻き込まれた可哀想な女の子。悪いのはイタチ」を装うのが賢明だと等のことなかれ脳が告げていた。

アイネは「はわはわ」と両手を口の前でワナワナさせて状況を静観することにした。そうしながらも他の5人を直視できはしなかったが。


…というかジェラール、奴は何をしているんだ。この場の司会として師匠の暴走に何か言うことはないのか?


軍人を見やると、同じくあくまで何も知らない体を貫いていた。

完全に感情を殺した目をしている。歴戦の軍人ともなるとイレギュラーな事態への耐性が出来すぎているのかもしれない。

そんなジェラールに、奥の間から走ってきた士官が近付き何やら耳打ちをした。その内容を聞き終わるとジェラールは一瞬だけ隠していた疲労を露わに深い溜息を吐き、すぐさま最初から何事も無かったかの様な落ち着いた様子で口を開いた。


「第一回目のテストの合格者は以上の6名だ。フェレットの絆を得た君たちには今後特別な修練を積んでもらう。そして、今回の合否に関係なく次回から成績の悪かった者は脱落する可能性がある。引き続き全力で当たって頂きたい。以上」

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