ふくらむ(高校生)

 日曜日。B子の家のキッチンでケーキを作る二人。

 B子はガラスのボウルに入った生クリームをハンドミキサーで泡立て、A子はジッパー付きの袋に入った麦チョコをめん棒で叩いて潰している。ちなみに二人は麦チョコケーキを作っている。最近流行っているクッキーベースの焼かないケーキを麦チョコでやってみることにしていた。


 B子は「よし」とうなずく。それからハンドミキサーの回転部分を取って、ガラスのボウルの端にトントン当ててホイップクリームを落とす。


 手を動かしながらも、じーっとそれを見ていたA子。B子が金属の回転部分を軽くトントン叩いてそのまま洗おうとしていたが、ホイップクリームはすべて落ちきっていなかったのを見逃さない。

 A子「それ舐めていい」

 B子「アイスキャンディーじゃないんだから。それにもしどこか鋭くなってたら危ないんだからね」

 A子は唇をぶるぶる鳴らして抗議する。

 ということでB子は、手に持った金属パーツを眺める。たしかにホイップクリームはくっついて、このまま洗ってしまうのもちょっともったいない。


 だから指でそっとホイップクリームを取って、A子の口元へ差し出す。

 B子「これでいいかな」

 A子はそれをパクっとくわえて、スポンッっと引き抜く。

 A子「おいしい」と笑みを浮かべる。


 B子は、気持ちがほわほわした。洗い流そうとしていた少ないクリームでA子はこんなにも喜んでくれる。小さな発見、小さな気づき。

 ただ、B子はハッキリとは自分の考えに気づいておらす、直後に思い出していたのは、おばあちゃん家の庭の池でコイにエサをやっているときの、「わー、パクパクしててかわいー」という思い出であった。


 B子はおもむろに、ガラスのボウルから指でホイップクリームをすくいとり、A子の口元へ差し出す。

 A子「いいの?」

 B子は無言でうなずく。


 そうして、新しく生クリームを泡立てる必要が生まれるまで、B子はA子へホイップクリームを与え続けたのであった。

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