交点(高校生)

 高校、今日最後の授業が終わりチャイムが鳴る。


 B子は「さて、帰りの支度を済ませよう」と気持ちを切り替え、教科書や筆箱をカバンにしまいながら、A子の方へチラリと目をやる。A子もカバンにノートをしまっているところで、「早く片付けて一緒に帰ろう」と思うB子。

 やっと片付け終わったB子がA子のもとへ向かおうと立ち上がったときだった。同時に立ち上がったA子はB子の視線に気づいていないようにスッと体の向きを変え、出口の方へと歩いていってしまう。


 B子(あれ……一緒に帰ろうと思ったのに)

 クラス内が解放感にざわめくなか、B子はA子が教室から出ていき後ろ姿が見えなくなるのを見つめていた。


 B子(あっ、お手洗いかな)

 そう思ったB子は、教室から廊下へ出てみる。さっきA子が向かった方向、階段やトイレのある方にA子はいない。

 急いでたのかも、と考えたB子はトイレへ向かう。そうして同じ階のトイレへ入ってみると、シン、とさっきまでのざわめきが遠く、誰もいない。個室はどうかと怪しんだB子は、一つ一つの個室を正面から覗いていく。

 いない……。念のため閉じていたトイレのフタも持ち上げてみたがA子はそこにはいなかった。


 B子はトイレから出て階段を下りながら、「お腹が空いていたとか、帰って見たい番組があったとか、お使いを頼まれていたとか……」とA子が先に帰った理由を考える。考えるが、「そんな理由がないことは私が一番知っている」と振りだしに戻る。


 B子(例えば、下駄箱で待ってて、ウソだよーみたいなドッキリがあって、一緒に帰ろうねって、言ってくれるのかもしれない……)

 そんな期待と、そうであって欲しいという願望を胸にB子は一階まで階段を下りて下駄箱へと向かう。


 B子「…………」


 これから帰るたくさんの生徒の中にA子の姿はない。

 もうこうなってはほっぺたをプクッと膨らませて怒ってしまったB子であるが、帰ったらスマホのメッセージで言い訳を聞いてやろうと意気込みながら、靴を履き替えてズンズンと力強く歩みだし校舎から出ていった。


 A子「お、B子だ」


 足を止めるB子。声のした方へ振り向くとA子がこちらへ向いて立っている。

 B子はプクッと膨らませたほっぺをプシューっとしぼませ、ちょっとだけ瞳をウルウルとさせてから、またほっぺをプクッと膨らませてA子へ詰め寄るように近寄っていった。


 B子「どうして先に行っちゃったのッ……!?」

 A子「え……? なんか当番があるって言ってなかったっけ。だから終わるまで待ってようかなって思ったんだけど」


 B子は察した。A子は勘違いをしている。そういえば昼休みにB子が「あれ、そういえば今日委員会の当番だったかも」と独り言を漏らしたのを聞き逃さなかったA子はぼんやりと心の中で「へーそーなんだー」と思い込んでいたが、あとでB子が確認すると今日は当番ではなかった。


 そしてB子は自らも、A子が先に帰ってしまったと勘違いしてしまっていたことに気づく。気づいてほっぺたをプシューっとしぼませる。


 A子は「ん?」と不思議そうな表情でB子を見つめていたが、「ま。終わったみたいだし帰ろっか」と微笑む。そして、「委員会の仕事だと思って小一時間は待つ覚悟だったけど、よかった」と手をB子へ差し出す。


 B子は一人で空回りしていた自分が恥ずかしいような思いから、無言でうなずいてA子の手をとる。どちらからともなく歩き出す二人。


 A子「どしたのB子?」

 B子「なんでもないんだからっ……」


 勘違いしても、どうしても離れられないA子とB子であった。

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