うれしいがいっぱい(高校生)
高校が休みの日。B子の部屋でローテーブルを挟んで宿題に向かう二人。
先に進めていたB子は宿題を終えて、小さく息を吐きながら顔を上げた。そして「ちょっと麦チョコ食べようかな」、と視線を机に置いてある麦チョコの袋へ向ける。袋を手に取ってもう片方の手に出してみると、コロッ……と数粒しかなかった。
B子(ついつい食べ過ぎてしまった……)
そう。宿題を進めながらB子は「ちょっと食べようかな」とほとんど意識せず何度も手を伸ばしていたのである。
B子(そういえばA子食べてたかな……はっ、実は気づいてて食いしん坊だと思われるかもしれない)
と考えたB子は手にのった麦チョコをA子へ差し出す。
B子「はい、最後あげる」
これは「たくさん食べちゃったから」という気まずさを「最後はA子に」という優しさのチョコレートでコーティングするB子の策略である。
A子「ん、ありがと」視線を落としたままいう。
B子はA子の手に置こう、と考えていた。
しかしその通りにはならず、A子はB子の手にのった麦チョコへ顔を寄せてパクっと食べてしまったのである。
B子(え、そうくるの……!?)
と内心驚きながらも、そっと手を引くB子。
変わらず宿題に視線を落とすA子をじっと見ていると、徐々に別の感情がわき上がってくる。
B子(なんか、うれしかった)
これは、二人の関係が小さなことを気にする仲ではない、というのがごく自然に感じられたからなのだけれども、B子はハッキリと気づいていない。
かわりに思い出していたのが、おばあちゃん家にいる猫が手からエサを食べてくれたときの記憶である。
そんな心がほわほわしているB子の視線に気づかず宿題を進めるA子。
さっき麦チョコを手から食べたことについては、
A子(私が宿題してるから手を使わせないように気づかってくれたんだな。B子はやさしいなあ)
と、勘違いながらも心はほわほわしていた。
さて、B子はもっとエサ――もとい麦チョコをあげたくなった。B子はそーっと立ち上がって、そろそろ~っと部屋から抜け出し、いそいそと麦チョコの新しい袋を持って元の位置に戻った。
そうして麦チョコを手のひらが隠れるほど盛って、両手でA子へ差し出す。
B子「さっき食べ過ぎちゃったから新しいの持ってきたよ」
もうとにかくエサチョコをあげたくて食べ過ぎたことを言ってしまっている。
A子「ん、ありが――ッ!?」
目の前に差し出された黒い山がなんなのか一瞬わからず驚くA子。
顔を上げてB子を見ると、なんだか表情がほわほわしている。
A子(ほんとにB子はやさしいなあ)
これは特盛のやさしさなのだろう、と解釈したA子であった。
もちろんほわほわした気持ちでむしゃむしゃと食べるA子。
そんなA子をほわほわ見つめているB子は、「おかわりはいくらでもあるからね」とやわらかな視線で語りかけるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます