こなれかん(高校生)

 高校の夏休み。A子はおばちゃん家の縁側に座り、水の張ってあるバケツで足を泳がせながら手に持ったゲームへ視線を送っていた。


「おーい来たよー」と後ろから声がきこえて振り向くA子。B子がトートバッグをおろしながらそばへとやってくる。


 A子「あ、B子いらっしゃい。迷わなかった?」

 B子「もう慣れたもの。今日はおばあちゃんにあげるお土産とか花火とか持ってきたんだー」

 とトートバッグをヒョイと持ち上げて見せてからそばへ置く。


 A子「わざわざありがとうね」

 B子「あっ!」とA子の足元へ視線を向け、バケツの存在に気づく。続けて「いいな私もー」とA子の脚の間までやってくると、腰を下ろして足を水につける。

 B子「きもち~……!」

 チャプチャプと足を泳がせる。


 A子「せまーい」

 ムーっとしながら自分の足でB子の足を挟んだり沈めたりする。

 B子「氷は入ってないけどこの水冷たいね」

 A子「うん。さっきそこの井戸でくんできたんだ」とB子の肩にあごをのせ、後ろから手をまわしてゲームを両手で持つ。


 B子「ちょっと休憩」と目を閉じてA子へ背中を預ける。

 A子はゲームを再開しようとした。が、視線がゲームへ向かう途中にB子の脚でピタッと止まる。B子のデニムショートパンツのスソを囲むように伸びている短い糸へA子は片手を伸ばし、指でサラサラ撫でるように触れる。


 A子「ちぎったの?」、B子がジーンズをブチッとちぎる様子を思い浮かべる。

 B子「私をなんだと思ってるの?」

 目を開いたB子は顔をギュンっとA子へ向ける。


 B子はちょっと得意げに「これはカットオフデニムだから元からこういうものなの。こういう切ったままに見えるのがコナレ感を演出するのです」

 A子「へー……。じゃあこの太ももの付け根ンとこにある白い線の模様も、過酷な環境で穿き潰してきたからじゃないんだ」

 B子「いったんB子オリジナルから離れよう? これはヒゲっていうの。これもコナレ感があっていいでしょ」


 正面を向くA子。

 A子「……コナレ感って、なんだろう」

 B子も正面を向いて、「うーん……。慣れてる感じがする、かな。無理してないってことだと思う」

 A子「あ、私それ知ってる。自然体だ。それがオシャレってことは……じゃあ私もこのティーシャツに短パンでオシャレタウンに駆け出そうかな」

 B子「それはズボラかもしれないよー? たぶんね、あくまでコナレ感はそう見えるようなオシャレだから、自然体とは限らないんだと思う」

 A子「えー……」、とうつむきがちにションボリする。


 しかしすぐにA子は顔を上げてうなずき、「うん、やっぱ好きなモン着よう」と言って笑みを浮かべる。

 B子は「しょうがないなぁ」とA子のほうへ顔を向ける。そして柔らかな視線をA子の横顔へ向けると、おもむろに口を開いた。

 B子「好きだよ」

 A子「えっ……?」

 少し驚いた表情のA子は、不思議そうに顔を向き合わせる。


 B子「私はそういうA子が好きだよ」

 A子は首をかしげ、「……ズボラなのが?」

 B子「好きなものが一番なところ」

 思わず笑みをこぼすA子。ひたいをピトッと合わせる。


 A子「じゃあ、私はなにが一番好きだと思う?」

 B子「うーん、なんだろうなー」

 いたずらっぽい口調で言う。


 そんな問答をにこやかに繰り返しているけれども、実はおでこもバケツの中で触れ合う足も、なんだか熱いように感じている二人であった。

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