ずっといちばんの(社会人)

 明日は会社がお休みのA子とB子。

 就寝に向けて寝室へやってきた二人は同じベッドに並んで横になる。


 仰向けに掛け布団を胸まで引き上げるB子へA子は顔を向けた。

 A子「あれ、B子枕変えた?」

 B子「うん。実はそうなんだ。今日帰りに寝具屋さんに寄って買ってきたの。ほら、睡眠は人生の三分の一っていうでしょ? だから気にしてみようかなって」

 A子「あ、そういえば今日別々で帰ったもんね。私が予約してたゲーム受け取るために分かれたあと行ってきたの?」

 B子「うん。ホントはA子のも買ってきたかったんだけど、枕は好みが分かれるから今日は自分のだけにしようかなって」

 A子「わかる。枕大事だよねー」

 横向きになって手と頭で枕の感触をたしかめるA子。


 仰向けのまま天井を見つめるB子。

 B子「でも実はね……嘘だよ」

 A子「……?」

 B子「その枕新しいんだよ」

 A子「え……え!?」

 モニモニと枕を揉んでたしかめるA子。


 横になったB子はプクッと怒りながらA子へ顔を向ける。

 B子「ホントA子は寝られればなんでもいいんだから……もう」

 A子「いや……なんというか、違和感なさすぎ」

 B子「そりゃあA子の好みはわかるもの」


 ジトッとした視線を向けられたA子は、徐々に笑みを浮かべる。

 A子「ありがと。うれしい」

 不意を突かれたB子はピクッと驚いてから恥ずかしそうに視線をA子から外し、そのままズイズイと近づいてA子の胸へ額を寄せる。B子の枕は、そんなB子に置いて行かれて後ろにたたずんでいる。


 B子「はいもうおやすみ!」

 A子「えー……」

 胸元へ視線をやるとB子の頭がみえる。


 A子(あ、いいにおい。シャンプーとか同じだった気がするから化粧水とか乳液のにおいなのかな……)

 と、いうことは置いといて――


 A子「……枕いいの? 置いてけぼりだけど」

 視線の先のB子はA子へ近寄りすぎて枕に頭をのせていない。

 B子「…………」

 A子「B子?」

 耳をすませると、B子はスヤスヤ寝息をたてていた。


 A子「いや、これじゃあ枕関係ないよ……」


 そういって目を閉じたA子は、そういえばさっきB子が「睡眠は人生の三分の一」といっていたのを思い出しながら、「じゃあだいたい一緒にいる人生なんだな」と思いながら眠ることにした……


 A子「あれ……?」

 胸元あたりに置いていた手を頭の横まで動かそうとしたが、動かせない。

 手で触って原因を確認すると、B子がA子の袖をギュッとつかんでいた。


 A子は心の中に、「私が安眠グッズなのではないだろうか」という言葉を浮かべたりしながら、いつのまにか眠ってしまうのであった。

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