第3話
30分ほど準備の時間があり、そのうちの20分はルーシーが駄々をこねただけだったが、旅の準備が整った。
「では、行ってまいります」
「シルヴィアさん、さっきの話は内緒よ。それとルーシー、探し物見つかると良いわね」
「……うん。お、お母さん……!」
「どうしたの?」
「……ううん、なんでもない」
広い玄関で、シルヴィアは依頼主に頭を下げてルーシーと共に歩いて行った。少女はシルヴィアの隣を歩きながらも、後ろで手を振る母に時折涙目で振り返る。母と離れて知らない女性と旅行をするのが不安なのは当然だ。
お出かけをする姉妹のような2人を見て静かに微笑むローラに、執事のルイスは小声で口を挟んだ。
「奥様、何故女性の冒険者にしたのですか?そもそも、聖騎士の方でも良かったのでは?」
「女性にしたのは、ルーシーが安心出来ると思ったからよ。それにギルドに依頼をしたのは、聖騎士は国を守るのが仕事であって、森でのサバイバルとかは慣れてなさそうだったしね」
「そうでしたか。ですが、あの冒険者の方で大丈夫でしょうか?なんというか……」
「人間味がなかった?」
思っていた事を当てられたルイスは、少し困ったような表情をしつつも頷いた。その反応に、ローラもまた、同感だというように頷いて見せた。
「大丈夫よ。私、これでも人を見る目はあるからね」
「そうでしたね」
「でも不思議ねぇ……。彼女、何処かで会った事があるような気がするんだけど、気のせいかしら」
銀髪をなびかせて歩くシルヴィアの後ろ姿に、ローラは奇妙な既視感を覚えていた。
貴族街を出て、シルヴィアは王国を囲む壁の方へと向かった。ルーシーは初めて見る商店街が珍しいのか、シルヴィアのスカートを掴みながら辺りをキョロキョロ見回している。
「お嬢様、何か欲しい物がおありですか?」
「えっと、その……」
ルーシーは恥ずかしそうにしながらも、近くの店を指差した。子供が欲しがるような種類豊富なお菓子が並んでおり、少女と同い年くらいの子供達がお菓子を選んでいる。
シルヴィアは店主にオススメのお菓子を適当に詰めてもらい、すぐに戻ってきた。店主の薦めたものを全て詰め込んだせいか、袋はパンパンだ。
「これ、食べて良いの?」
「はい。ですが後でお昼休憩にしますので、その時まで預かっています」
シルヴィアは袋を鞄にしまおうとしたが、それを見たルーシーは『あ……』と消え入るような声を漏らしたので、『失くさないでくださいね』と言って渡した。
それから買い物を終え、2人はいよいよ北の門へと向かった。
北の門に着いたところで、シルヴィアは鞄から貰った封筒を取り出した。だが城門には向かわず、門の隣にある壁の階段の入り口方へと向かった。
「ねぇ、門あっちだよ?」
「今回はこちらの方で合っています。階段を踏み外さないよう、注意してください」
困惑するルーシーをよそに、シルヴィアは壁の階段を上っていく。そして壁の頂上に出たところで、封筒からチケットを出して近くにいた運び屋の所へ向かった。ちなみに、ルーシーは階段の途中で疲れてしまったので、シルヴィアの背中におぶられて目を閉じかけている。
「おっ、来たな。お嬢ちゃん達が今回のお客さんかい?」
「はい。チケットはこちらに」
シルヴィアの渡したチケットを確認し、運び人は券を回収してポーチにしまった。
「じゃあすぐに出発するぜ。ソイツのカゴに乗ってくれ」
運び人の指差した方には、茶色い大きなカゴがあった。だがそのカゴを背負っているのは巨大な白い鳥で、シルヴィア達に鋭い視線を送っている。
「お嬢様、起きてください」
乗る前にシルヴィアが背中のルーシーを揺すって起こすと、ルーシーは目をこすりながら降りたが、目の前にいる巨大な怪鳥を見て腰を抜かした。
突然変異で産まれた個体ではあるが、その強靭な羽は何者にも負けない速さで大空を翔る。馬の何倍もの速さで目的地に向かうため、その分料金はかさむ。主に利用するのは、裕福な家の者くらいだろう。
「な、何、これ…?」
「特急鳥ですよ、お嬢様」
「はっはっはっ、お嬢ちゃんにはちと早かったか!仕方ねぇ……よっと」
運び屋がルーシーをそっとカゴに入れ、シルヴィアも後に続いてカゴに入る。ルーシーは知らないものへの恐怖からか、シルヴィアのスカートとカゴの底を力強く掴んだ。
「よし、じゃあ行くぜ!」
運び屋がゴーグルをかけながら声をかけると、特急鳥は轟くような声と共に大空へ羽ばたいた。
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