第60話 ①癒しの天使様は正月太りでお困りです

「えっ・・・・・・」


 お風呂あがりに久しぶりに体重計に乗って私は目を疑った。

 

「そんな・・・・・・」


 もしかして、これが正月太りというやつでは・・・・・・。

 今までこんなに体重が増えたことはなかったのに・・・・・・。

 私は体重計から逃げるように下りると文秋君に電話をした。


「ふ、文秋君!大変です!」

『ど、どうしたの?』

「・・・・・・」


 体重が増えたなんて言ったら文秋君は幻滅するでしょうか・・・・・・。

 そんな考えが頭をよぎり、私は言うのを躊躇った。


『紫穂さん?』

「いえ、やっぱり何でもありません」

『そうなの?それならいいんだけど。急に電話かかってきたから何かあったのかと思ったよ』


 安心し切った文秋君の声。その優しい声が私の耳を喜ばせる。

 電話の向こうのホッとした表情の文秋君が目に浮かぶ。

 私はなんて幸せ者なのだろう。そう思っていたら、幸せが降ってきた。


『ねぇ、せっかくだからもう少し電話しない?』

「そうですね。せっかくですから」

『実はさ・・・・・・紫穂さんに言わないといけないことがあるんだ』

「なんですか?」


 さっきの声とは違う少し緊張を孕んだ声に、私は少し身構えた。


『でもなー。これ言ったらきっと紫穂さんに嫌われるかもしれない』

「嫌いになんてなったらしませんから。でも、隠されると嫌いになるかもしれませんよ?」

『それは嫌だなー。じゃあ、言うけど笑わないでね』

「笑いません」

『実はさ、三キロ太ったみたい。正月太りてきなやつ』

「え?正月太りですか・・・・・・文秋君もですか・・・・・・ふ、ふふ、ふふふ」


 これは、私だけ言わないのはフェアじゃないですね。

 というか、隠されるのは嫌いと言った手前、文秋君に私が隠し事をするのはいけないですよね。

 

『あー。笑わないって約束したじゃん』

「ごめんなさい。まさか、文秋君も正月太りをしたなんて思ってなくて」

『しょうがないじゃん。紫穂さんの家でも俺の家でも美味しいもの食べてばっかりだったんだから。って、え?さっき、『俺も』って言った?もしかして・・・・・・紫穂さんも?』

「ですね。美味しいもの食べ過ぎましたね。実は・・・・・・恥ずかしながら・・・・・・私も二キロ太ってしまいまして」

『もしかして、それで電話してきた、とか?』

「当たりです。久しぶりに体重計に乗ったら体重が増えててビックリして文秋君に電話をしちゃいました」

『そっか』


 お互いに恥ずかしくなったのか少し沈黙が訪れた。

 そして、お互い同時に言った。


「あの、よかったら一緒にダイエットしませんか?」

『よかったら一緒にダイエットしない?』


 息ぴったりな二人は同時に笑い合って同時に頷いた。

 残りの冬休みもきっと楽しい毎日になるに違いない。

 そう思いながら、私は文秋君に「おやすみなさい」と言って電話を切った。

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