第57話 ⑧唯川の実家

 福袋の片づけを終えた俺たちは天谷さんが作ってくれたココアでホット一息をついていた。


「ん~!なにこれ!?めっちゃ美味しい!」

「だろ?紫穂さんのココアは世界一美味しいんだよ」

「ちょ!?文秋君!?」


 素直な俺の言葉に天谷さんはマグカップを顔の前で持って頬を赤く染めた。


「お母様の前で恥ずかしいのでやめてください……」

「あ、ごめん。つい、いつもの癖で」

「あらあら、二人は本当に仲がいいのね~」


 俺たちの様子を微笑ましそうに見守るお母さん。

 

「さてさて、私は退散しましょうかね~」


 そう言うとお母さんは残りのココアを一気に飲み干して、幸せそうな顔のままリビングを後にした。


「美味しそうに飲んでいったね」

「作った甲斐があるというものです」

「さて、この後どうしよっか?」

「せっかくなので、外に出て雪遊びしませんか?」

「いいな。やろう!」

「やった!」


 マフラーと手袋とコートとしっかりと防寒具を身につけて、俺たちは外に出た。

 雪は降ってないが地面にはしっかりと雪が積もっている。


「わぁ!冷たい!」


 天谷さんが雪を手に掴んで自分の頬につけた。

 

「えいっ!」


 その雪を俺に向かって投げてくる。

 その可愛さに見惚れてしまって、天谷さんの投げた雪がコートにあたった。


「やった!当たりました!」

「可愛い・・・・・・」

「またそうやって・・・・・・そんな人にはこうです!」


 天谷さんが両手いっぱいに雪を掬い上げ、俺に目掛けてバサッとかけてきた。

 柔らかな粉雪が宙に舞う。

 キラキラと輝くその雪の向こう楽しそうに頬を少し赤らめて天谷さんは笑っていた。


「やったなー!」


 俺もお返しにと雪を両手いっぱいに掬い上げ天谷さんにかけた。


「きゃー!冷たい!」

「ほら、もういっちょ!」

「もぅ〜!文秋君ばかりずるいです!」


 天谷さんは雪を固めて投げる。

 ゆるゆると飛んでくるその雪玉を俺はキャッチした。

 

「そんな遅い球は当たらないよ?」

「むぅ〜。そこは、当たってくださいよ!」


 天谷さんは頬を膨らませて不服そう。

 そんな姿また可愛いのであった。

 だから、また思わず「可愛いって」呟いてしまいそうになった。


「こうなったら、当たるまで何度も投げます!」

「全部キャッチするけどいい?」

「ダメです!」


 結局、天谷さんの投げる雪玉は一回も俺には当たらなかった。

 疲れてしまったのか、それとも俺に当たらないからつまらなくなったのか、天谷さんは不貞腐れて、雪だるまを作り始めた。


「ごめんって、機嫌直して?」

「別に、怒ってません。文秋君が運動神経いいの知ってますから」

「本当に怒ってない?」

「つまらないな〜とは思ってますけどね」

「何でもするから機嫌直してください」

「言いましたね?」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに天谷さんは俺の方を見て悪戯な笑みを浮かべた。

 

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