第56話 ⑦唯川の実家

「それにしても本当にかわいい子ね~」


 天谷さんの着替えを待っている間にお母さんがそんなことを言う。


「どうやって出会ったのよ~!」

「まぁ、カフェで……」


 俺はお母さんに天谷さんと出会った経緯を話した。


「へぇ~。そんなことがね~。私も飲んでみたいな~。紫穂ちゃんのココア」

「粉があるなら作ってくれると思うけどな」

「粉ならあるわよ」

「え、そうなの?」


 お母さんは頷くとキッチンに向かってココアの粉を俺に見せた。


「まぁ、作る機会がないから買ったばかりのままだけどね」

「紫穂さん次第だけど、作ってもらえないか聞いてみるよ」


 もし、作ってくれるなら俺も飲みたいしな。

 そう考えたところで、ガチャッとリビングの扉が開いた。


「お、お待たせしました」


 天谷さんが慎重にリビングに入ってきた。

 

「ど、どうでしょうか?」


 上下で色が違うワンピース。

 上が白色で下が水色の大人っぽいワンピースだった。

 もちろん、言うまでもなく似合っている。


「ん~!めっちゃ可愛い~!」

 

 俺が感想を言うより先に、お母さんがそう言って天谷さんに抱き着いた。


「ちょ、お母様!?」

「可愛すぎる~!離したくない!」

 

 そう言って頬を擦りまでする始末。

 困惑した顔で天谷さんが俺に助けを求める目を向けていた。

 

「お母さん。紫穂さんが困ってるから。離れてあげて」

 

 俺はお母さんを天谷さんから引き離した。


「ごめんね。紫穂ちゃん。つい、可愛くてテンションが上がっちゃった!」

「い、いえ、大丈夫ですよ」

「可愛いものを見たら可愛いって言わないといられない性格なのよね~」

「そ、そうなんですね」

「紫穂さんをあんまり困らせるなって」

「はいはい~」


 そう言って、お母さんは福袋の片づけをしだした。


「ごめんね」

「大丈夫ですよ。それより、どうですか?」

「うん。お母さんも言ってたけど、可愛いよ」

「ありがとうございます」


 天谷さんは照れ臭そうに笑った。

 本当は俺も抱きしめたかったが、その気持ちをグッと堪えた。


「そうだ。紫穂さん。お母さんがココアを飲みたいって言ってるんだけど、作ってくれない?」

「ココアですか?もちろん、いいですよ」

「できれば、俺のも」

「ふふ、分かってますよ」

「ありがとう」


 俺は天谷さんをキッチンに案内して、ココアの粉の場所を教えた。


「牛乳ありますか?」

「あるよ」

 

 冷蔵庫から牛乳を取り出して天谷さんに渡した。


「ありがとうございます」

「牛乳入れてるんだ」

「そうですよ〜。そういえば、文秋君は作り方知らないんでしたね」

「うん。俺、見てても大丈夫?」

「別に隠してるわけではないので、いいですけど、なんだか恥ずかしいですね」

「じゃあ、俺はあっちにいるわ」

「はい。できたら呼びますね」

「うん。楽しみにしてる」


 俺はリビングに戻り、お母さんの片付けを手伝った。

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