第55話 ⑥唯川の実家

 百貨店での昼食を終えた俺たちは家に帰ってきていた。

 大量の福袋をリビングまで運んで一息ついたところだ。


「二人とも本当に助かったわ。2人のおかげで今年も買いたかった福袋を買えたわ!」

「よかったですね。ちなみに何を買われたんですか?」

「見ちゃう!?見たい!?」

「見たいです」

「じゃあ、開封しちゃおう~!」


 お母さんはどれから開けようかと、キラキラと目を輝かせながら福袋を選んでいた。


「これに決めた!」


 そう言って、お母さんが福袋を1つ手に取った。

 食器棚の引き出しから鋏を持ってきて、セロハンテープを切った。

 その福袋は天谷さんが勝ち取った化粧品のお店のものだった。


「今年は使っている化粧品が入ってるかしら」


 そんなことを言いながらお母さんは化粧品を1つずつテーブルの上に並べていった。


「残念。私が使ってる化粧品はなさそうね。紫穂ちゃんは使ってるのある?」

「残念ながら私もないです」

「そっか~。仕方ない。これはご近所さんにあげましょう。さ、次を開けるわよ~」


 お母さんは次々と福袋を開けていき、リビングは物であふれかえっていった。

 

「全部開け終わった~!」

「お疲れ様です」

「紫穂ちゃん、欲しいのあったら言ってね」

「はい。ありがとうございます」

「そういえば、紫穂ちゃんも福袋買ったのよね?」

「はい。初めて買いました」

「開けないの?」

「開けてもいいですか?」

 

 なぜか、天谷さんは俺の方を見て聞いてきた。


「いいよ」

「じゃあ、開けます!」


 天谷さんはお母さんから鋏を受け取ると福袋を開けた。

 福袋の中からは数枚の服が出てきた。


「わぁ~!どれも可愛らしい服ね!」

「ほんとですね!」

「紫穂ちゃん、着てみてよ!」

「え、今ですか?」

「そう、今!」

 

 お母さんはニコッと笑って、天谷さんは俺の方を見る。

 俺としては、見てみたい気持ちがあるからお母さん側につく。


「文秋君も見たいですか……?」

「どっちかっていうと見たいかな」

「じゃ、じゃあ、着ます」


 天谷さんは少し照れくさそうに呟いた。


「どれがいいですか?」

 

 テーブルの上には三種類の洋服があった。

 可愛い系、かっこいい系、大人系。

 どれも捨てがたい。というか、どれも見たい!

 

「本音を言えば全部見たい……」

「どれか、1つです!今日は……」

「なら、いつも可愛い系の服だから大人っぽいやつかな」

「分かりました」


 天谷さんは大人系の洋服を手にリビングを後にした。 

 そんな俺と天谷さんのやり取りをお母さんはニヤニヤと笑いながら見ていた。


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