第53話 ④唯川の実家

 まず俺たちが向かったのは、一階の化粧品売り場だった。

 化粧品売り場だけあって、そこにいるのはほとんどが女性だった。

 周りに気を付けながら福袋が売ってあるところを目指す。

 福袋売り場の目の前まで到着した。

 さて、問題はここからだ。いつもは、俺が慎重に行くのだが、今日は天谷さんに行ってもらおう。

 男の俺が行くより、女の天谷さんが行った方がスムーズにたどり着けるだろうからな。


「紫穂さん。頼んでもいいか?」

「もちろんです!あの、赤い袋を取ってくればいいのですよね?」

「そう。あの、白い字で福袋って書いてあるやつを取ってきてくれ」

「分かりました!行ってきます!」


 天谷さんは意気揚々と人だかりの中に飛び込んでいった。

 小柄な天谷さんはうまく人と人の間を潜り抜けていき、あっという間に福袋の前に到着した。

 そして、右手に福袋を持った天谷さんが無事に戻ってきた。


「おかえり」

「文秋君!やりました!」


 天谷さんは嬉しそうに福袋を自分の顔の横まであげ、満面の笑みを浮かべた。

 その顔はまるで、スポーツの大会で優勝したかのようにキラキラと輝いていた。


「よし、次のところに行こう」

「はいっ!」


 俺たちは二つ目の福袋を買うために次の売り場へと向かった。

 次は洋服屋だった。


「次は洋服屋だ」

「洋服の福袋なんてものもあるんですね!」

「もし欲しいなら、紫穂さんも買ってもいいからな」

「本当ですか!?買いたいです!」

「じゃあ、次は2人で行くか」


 洋服屋の前に到着した。

 さっきの化粧品売り場とは違って洋服屋は男女が半々くらいだった。

 ここでも相変わらず福袋の前にはたくさんの人だかりができていた。


「よし、行くか!」


 俺は1つ気合を入れると、天谷さんと一緒にその人だかりの中に入っていった。

 天谷さんの様子をチラチラと確認しながら、俺は前に進んで行く。

 俺が先に福袋の前に到着した。

 とりあえず、福袋を1つ獲得した。

 天谷さんは……。

 少し離れたところで、福袋を手にしていた。

 笑顔で俺に向かって手を振っている。

 それを確認すると、俺は戻るように視線で合図を出した。

 

「ふぅ~。なんとかなったな」

「無事に私の分もゲットできました」

「よかったな」


 無事二つの福袋を手に入れた俺たちは二階へ向かうことに。 

 ここの百貨店は六階建てで、俺たちの担当は三階まで。 

 残る福袋の数は残り二つだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る