第52話 ③唯川の実家

 お雑煮を食べて、リビングのソファーで休憩していると、お母さんがテンション高く言った。


「さ、2人ともそんなところで休憩している場合じゃないわよ!これから大事なミッションがあるんだから!」

「今年も行くのか?」

「当たり前じゃない!新年の楽しみなんだから!」

「あの……どこに行くんですか?」


 隣に座っている天谷さんが俺のことを見上げて行った。


「それはな……」

「ほら、天谷ちゃん、そんな格好だとこけちゃうから着替えて!」

「え、え、どういうことですか!?」


 困惑する天谷さんをお母さんは無理やり連れて行った。

 確かに着物であそこに行くのは危険だな。

 しばらくソファーで待っていると、着替え終わった2人が戻ってきた。

 2人とも動きやすい格好になっていた。

 

「これで準備は万端ね!それじゃあ、行くわよ!」

「あの、説明してほしいんですけど!?」


 天谷さんは俺とお母さんのことを交互に見て言った。


「もしかして、天谷ちゃんは言ったことがないのかしら?」

「どこにですか?」

「私たちがこれからするのはね。福袋争奪戦よ!」

「福袋?」

「もしかして、紫穂さん。福袋知らない?」

「……はい」

「そうなんだ」

 

 俺は天谷さんに福袋とはどういうものなのかを説明してあげた。


「なるほど……つまりそのお買い得袋を今から買いに行くということですね」

「お買い得袋ね……確かにそうとも言うかもな」

「ほら、行くよ!福袋争奪戦は一分一秒を争うんだから!」


 お母さんに急かされ、俺たちは車に乗った。

 毎年、この福袋争奪戦に俺は駆り出されるのだが、いつも帰ったころにはヘトヘトになっている。

 いつもは俺とお母さんの2人だけで行くのだが、今年は天谷さんも参加ということで、いつもより多く買いそうな予感がしていた。

 お母さんの運転で毎年訪れている百貨店に到着した。

 駐車場に車を止めて、お店の中に入る。


「紫穂さん。はぐれないようにな」

「はい。分かりました」


 例年通り、百貨店の中は人であふれかえっていた。

 

「じゃあ、私は上から攻めるから、あななたち2人は下からお願い」


 お母さんは俺に何階で何の福袋を買うのかが書いてある紙とお金を手渡すと、するするっと人の間をすり抜けてエスカレーターを駆け上がっていった。

 お母さんを見送ると、俺は紙を見て回る順番を頭の中でシミュレーションした。

 毎年、来てるから百貨店の地図は完璧に頭の中に入っている。

 頭の中で進むルートが決まった。


「さて、俺たちも行くか。一つでも買えなかったら、お母さんに怒られるからな」

「え、そうなんですか!?それは、頑張らないとですね!」


 天谷さんはぐっと気合を入れると微笑んだ。

 まずは一階から攻める。

 一階で買う福袋は全部で二つだった。

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