第51話 ②唯川の実家

 玄関から出てきたお母さんはいきなり俺に抱きついてきた。


「ちょっと!?やめろって!恥ずかしいだろ!」

「いいじゃない別に!いつものことでしょ?」

「ほら、紫穂さんも困惑してるから」


 隣に立っている天谷さんは、ポカンっと口を開けていた。


「あら、ごめんなさいね!」

「あ、いえ・・・・・・大丈夫です」

「ごめん。紫穂さん」

「いえ、驚きはしましたけど、大丈夫です」

 

 天谷さんは首を振って微笑んだ。


「こんなところで立ち話もなんだから、早く入って入って!」

「お母さんがいきなり抱きついたりするからだろ」

「久しぶりの息子との再会に喜ばない親はいないでしょ?」

「会って早々抱きついてくるのは特殊だと思うけどな」


 天谷さんのお母さんでもそこまではしなかったぞ。


「そう?まぁ、いいじゃない」


 お母さんは能天気にそう言って家の中に入っていった。

 俺と天谷さんもその後に続いて家に入った。


「お邪魔します」

「ようこそ我が家へ!」


 お母さんが天谷さんのスリッパを置きながらそう言った。


「何もないけどゆっくりしていってね!」

「はい。ありがとうございます」


 天谷さんはお母さんに向かって丁寧に頭を下げた。


「というか、随分と可愛い子ね。文秋、あんたいつの間にこんな可愛い彼女を作ったのよ!」

「それは・・・・・・また後で話すよ」

「約束だからね!」


 今日は寝れなそうだな。

 そう思いながら俺はお母さんの後に続いてリビングに向かった。

 

「そういえば、お父さんは?」

「さっきまで、ここでお雑煮を食べてたけど、今は仕事部屋に戻って仕事をしてるわ」

「もう仕事してるのか。大変だな」


 俺はいつもの定位置に座った。


「紫穂ちゃんはおもち何個食べる?」

「私は2つでお願いします」

「文秋も2個でいいわよね」

「うん」


 天谷さんは俺の隣に座った。

 

「なんだか、賑やかなお母様ですね」

「うるさいだけだよ」

「いつもこんな感じなのですか?」

「まぁ、だいたいこんな感じかな」

「私の家と似てますね」

「かもな」


 お母さんがお雑煮の入ったお椀を俺たちの前に置いた。

 天谷家と同じタイプのお雑煮だ。


「美味しそうですね」

「美味しいぞ」


 お母さんのお雑煮は、昨日食べた天谷さんのやつとはまた違った美味しさがある。


「おかわりたくさんあるから好きなだけ食べてね」

「はいっ!」


 お母さんはすでに食べたらしく、俺と天谷さんの2人でいただきますをしてお雑煮を食べ始めた。


「うん。やっぱり美味しい」

「ん〜。美味しいです」

 

 天谷さんはほっぺたに手を当てて幸せそうな顔。

 っこの味は年に一度しか食べれないからな。しっかりと味わっておかないとな。

 俺はお母さん特製のお雑煮をしっかりと味わいながら完食した。

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