第47話 14.【福笑い】癒しの天使様はお見合いにお困りです

 凧揚げを終えた俺たちは大広間に戻った。

 そのころにはすっかりと夜になっていた。

 ちなみに今日は天谷さんの家に泊まることになっている。

 

「今日最後は福笑いです」

「なんだか、久しぶりにちゃんとお正月をやった気がするよ」

「ふふ、そうなんですか?」

「うん。俺の家ではおせち食べるくらいしかしないからな」

「そういえば、文秋君は実家に帰らなくてよかったのですか?」

「帰るよ。明後日帰ろうと思ってる」

「そうなんですね。ちなみに、私が付いて行っても?」

「もちろんいいよ」

「ありがとうございます。文秋君のご両親に会うの楽しみです」

「俺の親は普通の人だぞ?というか、天谷さんのご両親も今のところ普通の親のように感じるんだがな」

「それは、文秋君の前だからですよ。今はかなり抑えてますね」

「そうなんだ」


 そう言われると、抑えてない天谷夫妻を見てみたい気もする。

 どんなふうに天谷さんと接するのだろうか。

 

「二人とも何やってるのー?福笑い始めるわよー」

「はーい。今行くー。行きましょう文秋君」


 天谷夫妻の前に座る。

 テーブルの真ん中には福笑いのセットが置いてあった。


「じゃあ、誰からやる?」

「私からでもいいですか?」

「じゃあ、紫穂ちゃんからね」

「はい」

「ペアは唯川君でいいわよね?」

「もちろんです。文秋君よろしくお願いしますね!」

「ん?分かった」


 何をやるのかイマイチ分からなかったが、とりあえず頷いておいた。


「それじゃあ、はい」


 水穂さんが天谷さんに目隠しを手渡した。

 それを天谷さんがつける。


「始めるわね~!」


 そう言って、水穂さんが福笑いのパーツをバラバラに混ぜた。


「で、俺は何をすればいいんだ?」

「それはですね。私にパーツを渡して、どこに置けばいいのか指示を出してくれればいいのです」

「なるほどな。というか、福笑いって普通1人でやるものなんじゃないのか?」

「まぁまぁ、細かいことはお気になさらずに」


 天谷さんは手を前に差し出した。

 どうやらその手にパーツを置けということらしい。

 ここは天谷家のルールに合わせよう。

 俺はおかめさんの口のパーツを天谷さんの手に乗せた。


「口のパーツだよ」

「分かりました」


 天谷さんはそのパーツを的確な位置に置いた。

 

「次をお願いします」

「じゃあ、次は耳」

「それはこの辺ですね」


 それからも天谷さんは俺の渡したパーツを的確な位置に置いていった。

 

「これで完成です!」


 天谷さんの前には綺麗に並べられたおかめの顔があった。

 目隠しを外した天谷さんは満足げな顔でおかめを眺めていた。


「さ、次は文秋君の番です」

「分かった」

 

 俺は天谷さんから目隠しを受け取ってつけた。

 

「ではいきますね」


 天谷さんが耳元で囁いた。

 そして、俺の手を取っておかめのパーツを渡してきた。

 

「紫穂さん。普通に渡してくれない?」

「えー。せっかく文秋君で遊べると思ったのに」

「いやいや、遊ばないでくれますか!?」

「ダメですか?」


 目隠しをしていて目の前は真っ暗だが、天谷さんが上目遣いで俺のことを見ているのが想像できる。


「……ダメです。やめてください」

「しかたないですね。やめてあげます」


 目隠しをしているから感覚が研ぎ澄まされて余計にヤバいんだ。


「はい。次のパーツです」


 天谷さんは今度は普通にパーツを渡してくれた。

 それをそこだと思う場所に置いた。

 正直、今自分が置いたところが正しいのか、俺には分からない。 

 その後も、天谷さんから普通に受け取ったパーツを置いていった。

 そのたびに天谷さんがクスクスと笑っていたのは気のせいではないだろう。


「これが最後です」

「分かった」


 天谷さんから受け取った鼻のパーツを置いて、俺のおかめが完成した。

 

「文秋君。目隠しを外しても……ふふ」

「ちょ、なんで笑ってるの!?」

「だって、文秋君が作ったおかめさん、面白んですもん」


 俺は目隠しを外して、自分の作ったおかめを見た。

 そこにはなんとも不細工なおかめがいた。

 これを見て、笑わない方がおかしい。

 俺もそれを見て思わず吹き出してしまった。


「面白いな、これ」

「でしょ!だから、笑わずにはいられないのです」

「だな」


 よく見てみれば、目の前に座っている水穂さんと紫苑さんも笑っていた。

 

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