第46話 13.【凧揚げ】癒しの天使様はお見合いにお困りです

 真っ黒な顔の俺と天谷さんと水穂さん。

 それとは対照的に真っ白な紫苑さんの四人で外に移動した。

 次は凧揚げをすることになっていた。

 さすがに凧揚げは家の中ではできない。

 幸いにも雪は積もっているが、降ってはいなかったのでちゃんと飛ぶだろう。


「それにしても、お互い真っ黒だな」

「ですね」


 お互いに真っ黒な顔を見合わせて笑いあった。

 頬にもおでこにも目の周りにも墨がついていた。

 

「紫苑さん強すぎない?」

「あはは、ですね。お父さんはここ最近は負けなしです。お姉ちゃんがいたころは、お姉ちゃんに黒星を付けられてましたけどね」

「そうなんだ」

「また、お姉ちゃんも入れて家族みんなで羽根つきをしたいです」

「来年はできたらいいな」

「ですね。絶対に帰ってきてもらいます」

「俺も協力できることはするよ」

「ありがとうございます。さて、凧揚げ楽しみましょうか」

「だな」


 少し先にいた天谷夫妻と玄さんのもとに進み、凧を受け取る。


「どっちが、凧を持ちますか?」

「それって重要な役目?凧揚げも初めてなんだけど……」

「結構重要かもですね。離すタイミングとか絶妙ですし」

「じゃあ、お願いしてもいい?」

「いいですよ。じゃあ、こっちをお願いしますね」


 天谷さんから紐の方を受け取った。

 凧揚げは二人一組で行うことになっていた。

 俺と天谷さん。

 紫苑さんと水穂さんのペアだ。


「それじゃあ、それを持って走ってくださいね」

「分かった。着物で走れる?」

「大丈夫です。慣れてますから」

「そっか」

「二人とも準備はいい?」


 水穂さんに聞かれ俺たちは頷いた。


「それじゃあ、始めるわよ!」

 

 水穂さんが合図を出し、四人で一斉に走り出した。

 どのくらいの速さで、どのくらいの距離を走ればいいのか分からなかったから

、俺は紫苑さんを見ながら調整した。

 

「離します」

 

 天谷さんはその声と同時に凧を手から離した。

 すると、凧はふわっと空へ舞い上がっていった。

 

「上手くいきましたね!」

「みたいだね」


 紐を調節しながら少しでも長く凧を空に漂わせる。


「上手ですね」

「そう?」

「はい。私が初めてやったときはこんなに長くもちませんでしたよ」

「そう言われると嬉しいな」

「文秋君って器用ですよね。さっきの羽根つきも初めてなのに、私に勝ちましたし」

「あれは、たまたまだって、結局、あの一回しか勝てなかったし」

「私は一回も負けるつもりはなかったのですよ?」


 天谷さんが頬を膨らませて見上げてきた。

 その顔が可愛すぎて、紐から手を離しそうになった。


「何してるんですか。危ないですよ。しっかり持ってください」

「ごめん……ありがとう」


 離しそうになった俺の手を天谷さんは握った。

 

「これで大丈夫ですね」

「そうだな」


 それから2人で手を握ったまま凧揚げを続けた。 

 しばらく、凧は涼し気に空を舞っていた。

 

☆☆☆

本日より1日1投稿になるかもです。

ご了承ください🙇‍♂️

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