第38話 ⑤癒しの天使様はお見合いにお困りです

 翌日。寝れるのかと心配だったが、どうやら杞憂に終わったらしい。

 キングサイズのベッドは思った以上に寝心地が良かったみたいだ。

 天谷さんに体を揺らされて俺は目を覚ました。


「唯川君。おはようございます」

「ん、おはよう」

「朝ご飯できてますから、顔洗ってきてくださいな」

「ん、分かった」


 まるでいつもそんな風にやっているみたいに会話をした。

 俺はベッドから起き上がって、洗面台に向かう。

 顔を洗うと、だんだんと頭が覚醒してきた。 

 そして、さっきの天谷さんとのやり取りを思い出す。


「夫婦かよ……」


 そう呟いてもう一度冷水で顔を洗った。

 用意されていたタオルで顔を拭いてリビングに向かった。

 

「目が覚めましたか?」

「うん。覚めたよ」

「それはよかったです」


 俺はソファー前にの座っていた天谷さんの隣に座った。

 サイドテーブルの上には美味しそうな朝食が並んでいた。


「朝ごはん食べたら、すぐに準備して出発ですからね?」

「了解」

「緊張してますか?」

「今は、大丈夫かな」

 

 昨日はあんなに緊張していたのに、なぜか今は全くといいほど落ち着いていた。


「何でだろうな。不思議なくらい落ち着いてるよ」

「その調子でいてくださいね?」

「まぁ、頑張ってみるよ」

 

 俺は苦笑いを浮かべ、テーブルに並んでいた卵焼きを口に運んだ。


「うまっ」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 天谷さんは微笑んで卵焼きを口に運んだ。

 本当はもっと味わって天谷さんの朝食を食べていたかったが、あまり時間もなかったので、ほどほどに味わって朝食を完食した。


「ごちそうさまでした。美味しかったよ」

「お粗末様です。さて、準備しましょうか」

「そうだな」


 天谷さんは立ち上がると、ちょと待っててくださいと言ってリビングから出て行った。

 俺は、その間にお皿をキッチンに持って行って洗うことにした。


「唯川君。今日はこれを着てください」


 リビングに戻ってきた天谷さんは黒色の高そうなスーツを持っていた。

 

「スーツ?」

「はい。その、一応顔合わせですので」

「なるほど。分かった」

「あ、お皿洗ってくださったのですね。ありがとうございます」

「これくらいはな。ご飯作ってくれたしな」


 天谷さんからスーツを受け取ってソファーに戻った。


「スーツ着たことありますか?」

「いや、ないな。初めて着るよ」

「そうなんですね。早く来てみてください!」

「着替えるけど、その、向こう向いててもらってもいい?」

「あ、はい……」


 さすがに、天谷さんに見られながら着替えるのは恥ずかしい。

 

「じゃ、じゃあ私も着替えてくるので、その間に……」

「分かった」

 

 再び天谷さんはリビングから出て行った。

 それを確認すると俺はスーツに着替えることにした。

 肌触りがいかにも高級って感じだった。

 スーツに着替え終わって待つこと数十分。

 天谷さんがリビングに戻ってきた。


「お待たせいたしました」

「え、その恰好は……」


 リビングに戻ってきた天谷さんは着物姿だった。

 水色を基調としていて、ところどころに真っ赤なバラがちりばめられていた。

 それはもう見事な着物だった。

 

「どうですか、この着物?」

「うん……めっちゃ綺麗だよ」

「そうですか。ありがとうございます」


 天谷さんは恥ずかしそうに着物の袖で顔を隠した。

 本当によく似合ってる。

 

「なぁ、写真撮ってもいいか?」

「いいですけど……その代わり唯川君の写真も撮りますからね?」

「そ、それは……」


 悩みどころだ。

 天谷さんの着物の写真が手に入るなら撮られてもいいか。


「もぅ!昨日も言いましたけど、私は遠慮しませんからね!」


 そう言って、天谷さんは俺と腕に自分の腕を絡めた。

 そして、スマホを取り出し内カメラを起動させた。


「これなら、いいでしょ?」


 カシャというカメラ音が鳴り、スマホの画面に俺と天谷さんの姿が映し出された。

 俺は驚いた表情をしていて、天谷さんは嬉しそうに笑っていた。



 

 

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