第37話 ④癒しの天使様はお見合いにお困りです
「あ、天谷さん……」
「はい。着替え終わってるので、入ってきても大丈夫ですよ」
部屋の中から天谷さんの声が聞こえてきた。
その声に俺の心臓がドキッと跳ねた。
俺はそっとドアノブに手をかけた。
ゆっくりと扉を開け、天谷さんの寝室の中が少しずつ露になった。
天谷さんはキングサイズのベッドの真ん中にちょこんと座っていた。
☆☆☆
「唯川君……」
名前を呼ばれまた心臓がドキッと跳ねた。
カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた天谷さんはまさに天使のようだった。その背中に一瞬、翼が生えて見えたのは、着ているが白色だったからだろう。
天谷さんは前回見た水色のモコモコのパーカーでなく、真っ白で温かそうなパーカーだった。
「そ、そんなにじっくり見られると恥ずかしいんですが……」
「ご、ごめん」
俺は天谷さんから顔を逸らしたのはいいのだが、女性の寝室なんて初めて入ったので、どこを見ていいかわからず、俺は下を向いた。
「唯川君、下を向いてないでこっちに来てください」
「う、うん……」
俺は顔を上げベットの方に向かって行き、天谷さんとの間に人ひとり入れるくらいの隙間を作って座った。
「離れすぎでは?」
「これくらいで勘弁してくれ……」
「そうですね。私も恥ずかしいので、今はこれでよしとしましょう」
「あ、ありがとう」
この距離でもまだ恥ずかしいが、それは天谷さんも同じことらしい。
それから俺たちは一言も話すことなく時間だけが刻一刻と過ぎていった。
「そ、そろそろ寝ないか?」
「そうですね」
さすがにそろそろ寝ないと、支障が出る。
寝れないとは思うが、一応俺は寝ることを提案した。
「じゃあ、横になりましょうか」
そう言って天谷さんはベッドに寝転がった。
そして、恥ずかしそうに微笑みながら、自分の隣に寝るように促した。
もちろんここでも、人ひとり分の間を開けて天谷さんと向き合う形でベッドに寝転んだ。
「もぅ〜。結局その距離なのですね」
「しょうがないだろ。恥ずかしいんだから。後、この距離を保ってないと・・・・・・」
理性が飛んで何するか分かんないんだから・・・・・・。
「保ってないと、どうなるんですか?」
「ど、どうなるのかな・・・・・・?」
「なんですか、それ」
天谷さんはクスクスと笑った。
そして、ごにょごにょと言う。
「別に遠慮することないのに・・・・・・」
「え?」
「そりゃあ、私だって恥ずかしいですけど、その、もう私たちは恋人同士じゃないですか・・・・・・だから、遠慮しなくてもいいんですよ?」
そうは言ってもな・・・・・・。
むしろ、恋人になったから遠慮してしまうというか・・・・・・。
だって、そうだろ?がっついて嫌われたら嫌だし・・・・・・。
「唯川君が遠慮するなら、私は遠慮しませんよ?」
天谷さんはそう告げると、俺の方に移動してきた。
その距離は拳一個分。
天谷さんの大胆な行動に俺は後ろに下がろうとした。しかし、俺の後ろにベッドはなかった。
「あ、天谷さん?最近積極的すぎませんか?」
クリスマスの時といい、大胆な行動が増えてきたような気がする。
「積極的な私は嫌ですか?」
天谷さんはうっとりとした目で俺のことを見つめそう言った。
「い、嫌ではないんだけどな・・・・・・」
「なら、いいじゃないですか。本当ならもっと甘えたいのですよ?」
そう言って天谷さんは俺の胸に頭を押し当ててくる。
「これでも、我慢してるんですよ。あんまり、積極的に行きすぎて唯川君に嫌われてくはありませんから」
「いや、まぁ嫌いになったりはしないと思うけど・・・・・・もしかして天谷さんって甘えん坊なのか?」
「ち、違いますから!?」
天谷ささんは大きく首を振って否定する。
「いやいや、さっき自分で甘えたいって言っただろ」
「それとこれとは別です!そもそも、私は誰にでも甘えるわけじゃないですよ?唯川君だから甘えたいんです・・・・・・」
「そ、そっか・・・・・・」
「そうです・・・・・・」
ストレートにそんな言葉を浴びせられて、それ以上なにも言えなくなってしまった。
天谷さんは恥ずかしくなったのか、顔を俺の胸に埋めた。
「ね、寝るか?」
「そうですね。でも、寝る前に一つだけ。唯川君は積極的な私と、そうじゃない私どっちがいいですか?」
「それは・・・・・・」
正直どっちの天谷さんも選べない。
しかし・・・・・・。
「・・・・・・時と場合によるな」
「というと?」
「ふ、2人っきりの時は積極的な天谷さんでも、甘えん坊な天谷さんでも、まぁいいけど・・・・・・。それ以外の時は今まで通りの天谷さんでいてくれたら助かるかな。もちろん天谷さんも、分かっているだろうとは思うけど」
「も、もちろんです!」
積極的な天谷さんになれるまでは時間がかかるだろうがな・・・・・・。
「初めの方は、ほどほどで頼む・・・・・」
「仕方がないですね。唯川君の言う通りにしてあげましょう」
「そうしてくれると助かるよ」
まぁ、それでも心臓がいくつあっても足りなそうな気がするけどな。
「それじゃあ、唯川君。おやすみなさい」
そう言うと、天谷さんは俺の頬に軽くキスをして静かに目を閉じた。
「・・・・・・俺も寝よ」
とりあえず、何事もなかったかのように俺も目を閉じた。
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