第36話 ③癒しの天使様はお見合いにお困りです

 天谷さんと一緒にカウントダウン番組を見ながら年越しそばを食べていると、10分なんてあっという間に過ぎ去っていき、テレビの中のリポーターがカウントダウンを始めた。


「あ、カウントダウンが始まりましたよ」

「みたいだな」

「カウントダウンしますか?」

「そんなこと言ってる間に……」


 俺はテレビを指差した。

 テレビの中ではすでにカウントダウンは終わっており、無数の花火が夜空に上がっていた。


「あ、年が明けちゃいましたね」

「みたいだな」

「明けましておめでとうございます。唯川君」

「明けましておめでとう。天谷さん」

「あーあ。せっかくなら唯川君と一緒にカウントダウンしたかったです」


 そう言って天谷さんは唇を尖らせた。


「まぁ、来年一緒にすればいいんじゃないか?」

「え?」

「ん、何驚いてるんだ?」

「いえ、そうですね。来年は一緒にカウントダウンをしましょう」

「あぁ、だから今年もよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」


 そう言いあって、俺たちはお互いに微笑みあった。

 

「さて、寝ましょうか。明日に備えてしっかりと体力をつけておかないといけませんから」

「もう、今日だけどな。そうだな。寝よっか」


 と言いつつ、俺はどこで寝ればいいんだろうと思っていた。

 もちろん、寝室にあるであろう天谷さんのベッドで一緒に寝るわけにはいかないしな。なぁ、妥当なところでいったらこのふかふかのソファーだろうなと俺は思った。


「じゃあ、俺はこのソファーで……」

「何ってるんですか?」

「え、いやだから俺はこのソファーで寝る……」

「もちろん、唯川君は私と一緒に寝るんですよ?」

「は?あの、天谷さん自分が言ってること理解してる?」

「当り前じゃないですか」


 天谷さんは真剣な目で俺のことを見つめている。

 どうやら、冗談で言っているわけではないらしい。


「本気か?」

「本気です」

「本当に本気か?」

「本当に本気です」

「わ、分かったよ」

「ほんとですか?」


 天谷さんは何故か目を丸くして驚いていた。

 

「何で驚いてるんだよ」

「いや、まさか、本当に承諾してくれるとは思ってなかったので……」

「なら、最初から言うなよな」

「でも、決まったのですから、約束は守ってくださいね」


 恥ずかしそうにもじもじと体を動かして天谷さんはそう言った。

 可愛すぎかよ!?

 とはいえ、俺も恥ずかしいんだけどな……。 

 自分の頬が熱いのが分かる。


「わ、私は先に行って着替えてきますから、少ししたら、その寝室に……」

「わ、分かった」


 天谷さんはリビングを出ていって、寝室に向かって行った。

 リビングに残された俺はソファーにもたれかかった。

 

「俺、今日、寝れるかな……」

 

 顔合わせに備えるどころか、顔合わせ前に死んでしまうんじゃないだろうか。

 しばらく経って、ソファーから立ち上がり、天谷さんの寝室に向かうことにした。

 廊下に出て、天谷さんの寝室の扉の前に立った。

 ご丁寧に寝室という札が扉についていたので、迷うことなく到達できた。

 本当に、入ってもいいのだろうか?

 俺は深呼吸をして、天谷さんの寝室の扉をノックした。


「あ、天谷さん……」

「はい。着替え終わってるので、入ってきても大丈夫ですよ」


 部屋の中から天谷さんの声が聞こえてきた。

 その声に俺の心臓がドキッと跳ねた。

 俺はそっとドアノブに手をかけた。

 ゆっくりと扉を開け、天谷さんの寝室の中が少しずつ露になった。

 天谷さんはキングサイズのベッドの真ん中にちょこんと座っていた。

 

 

 



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