第35話 ②癒しの天使様はお見合いにお困りです
天谷さんのご両親との顔合わせ前日がやってきた。
つまり大晦日。
俺は天谷さんの家にやってきていた。
もちろん、一緒に年を越すためだ。
「やばい・・・・・・緊張する」
「緊張するのはまだ早いですよ?」
隣に座っている天谷さんはクスクスと笑った。
そうはいっても緊張するだろ・・・・・・。
明日は天谷さんのご両親と顔合わせなんだぞ。もし、なにか失敗でもしてみろ、天谷さんとの関係を引き裂かれることになるかもしれないんだぞ。しかも、相手は得体の知れない人たちだし。
「そんなに緊張しなくても、私の親は唯川君ことを取って食ったりしませんよ?」
「そんなことは分かってるけどさ……」
「まぁ、多少癖が強いですけど……」
「それが心配の原因なんだが?」
「いつも通りの唯川君でいていただければきっと大丈夫ですよ」
天谷さんは微笑んでソファーから立ち上がった。
「さて、そろそろ年越しそばを作りましょうかね」
「今更なんだけど、本当に泊まってもいいの?」
「ダメだったら、こんな時間まで一緒にいませんよ」
「そっか」
現在の時刻は23時30分。
残り30分で今年が終わる。
夕方に天谷さんの家にお邪魔してから、数時間が経過していた。
一緒に勉強したり、読書したり、テレビを見たり、ソファーで寄り添って寝たり、この時間になる前だらだらと過ごしていた。
「それじゃあ、ちゃっちゃと年越しそばを作ってきますね」
「何か手伝えることがあったら言ってくれ」
「はい」
天谷さんは髪の毛を結び、エプロンを付けるとキッチンに向かった。
俺のその後姿を見つめる。
なんだろう、この圧倒的奥さん感……。
いつか天谷さんの結婚したら、これが日常になる日が来るのだろうか。
キッチンに立っている天谷さんのことを見て、そんな妄想を膨らませた。
「どうかしましたか?」
「ん、天谷さんと一緒にいれて幸せだなっと思ってな」
「その幸せをかみしめるのは明日の顔合わせが終わってからにしてくださいな」
「確かに、それもそうだな」
俺はなんとなくテレビをつけ、明日のことを考えることにした。
ある程度は事前に頭の中でシミュレーションを行っていた。
しかし、相手は天谷さんのご両親だ。シミュレーション通りに事は進まないだろう。
いくつかのプランを考えとかないとな。
テレビには今年起こった出来事のまとめ番組なるものをやっていた。
その番組を見ながら、俺は天谷さんと過ごした日々を思い返していた。
かれこれ、天谷さんとの付き合いは1年以上になる。
初めは眺めるだけの存在から、少しずつ話すようになり、今では彼女にまで昇格した。
変えようと思えば変わるものだな。何事も一歩目を踏み出すことが大事なんだろう な。
俺は天谷さんに初めて話しかけた日のことを思い出して、懐かしさに浸っていた。
「お待たせしました。って、なんで泣いてるんですか?」
「何でだろうな……」
天谷さんと過ごしてきた日々を思い返すとなぜだか自然と涙が溢れてしまっていた。
やっぱり、天谷さんはもう俺の中でなくてはならない存在なのだなと改めて実感した。
「天谷さんとこうして話すことができていることが、嬉しいのかもな」
「だから、その涙も明日を乗り越えてからにしてくださいな」
「あぁ、とにかく今は明日のことだけに集中するよ。ごめん」
「でも、今は私との時間に集中してください。ほら、年越しそば食べますよ」
いつの間にか年越しそばはサイドテーブルの上に置かれていた。
その前に俺たちは横並びに座って、いただきますをした。
年越しまで残り10分を切っていた。
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