第34話 ①癒しの天使様はお見合いにお困りです

 天谷さんと付き合って3日が経った。

 俺は今、天谷先生と向き合っていた。

 冬休みなので、とりあえず天谷先生にメールで、天谷さんと付き合うことを報告したところ呼び出されたというわけだ。


「で、紫穂ちゃんと本当に付き合うことになったと……」

「……はい」


 天谷先生は露骨に顔を歪めて、テーブルを指でトントンとしていた。


「あの、怖いんでそれやめてもらえませんか?」

「ああ、ごめん。事情はなんとなく理解したわ。唯川君が紫穂ちゃんと付き合うのは百歩譲って認めてあげる。あの時の紫穂ちゃんの顔を見てれば、あなたに惚れてるのは分かってたからね。でもね、これだけは約束してもらうわよ。紫穂ちゃんのことを泣かしたら許さないから。いいわね?」

「そんなこと、言われなくても分かってますよ。紫穂さんのことを泣かせたりしませんよ」

「ん、ならいいわ」


 天谷先生は満足そうな顔でコーヒーを啜った。


「さて、作戦会議を始めましょうか」

「え、なんのですか?」

「そんなの決まってるじゃない。あの人たちにどうやって唯川君を認めてもらうかの作戦よ」


 落ち着き払った声でそう言った天谷先生。

 作戦を考えないといけないほどのことなのだろうか。

 そう思っていると、天谷先生は真剣な口調で言う。

 

「唯川君は何もわかっていないみたいね。あの人たちのこと」

「そうですね。過保護って言うことくらいしか知らないですね」

「まぁそれは合ってるわね。それだけじゃないのよ。その程度だったら、私は家から出て行ったりしなかったと思うわ」

「その程度って……」


 その程度ではないと思うんだけどな……あの仕送りの量は。


「いい?もしも本当にお母さんたちに会いに行くんだったら覚悟しておきなさい。中途半端な気持ちで会いに行ったら唯川君はあの2人に気圧されることになるから」

「めっちゃ不安になるようなことを言いますね。でも、もう覚悟はしてますから」

「そう。なら、大丈夫ね。決して悪い人たちではないんだけどね。その、少しだけ私たちのことを大切に思っているってくらいで」


 そう言った天谷先生は苦笑いを浮かべていた。

 その顔はどこか寂しげで、うんざりしているような顔に見えた。


「もしかして、天谷先生はご両親に会いたいんじゃないですか?」

「え……そ、そんなこと……ちょっとは、あるかも……しれないわね」


 なんだかんだ、嫌ってはいないんだな。

 そりゃあ、そうか。親だもんな。どれだけ、鬱陶しくても、自分のためだってわかっていたら、その気持ちを無下にはできないよな。

 天谷さんがそうであるように。


「一度、会いに行ってみたらどうですか?」

「無理よ。今更どんな顔して会えばいいのか分からないもの」

「そんなの気にする必要ないんじゃないですか?親子なんですから」


 天谷先生は一瞬考えて言った。


「やっぱり無理よ……」

「そうですか」

「私のことは今はいいのよ。それよりもあなたたちのことの方が大事なんだから。そっちの話をしましょう」


 俺は天谷先生とご両親の間にどんなことがあったのか知らない。  

 だから、これ以上、土足で足を踏み入れるのはダメなのだろう。

 だけど、そんな寂し気な顔をされたら、何とかしてあげたいと思ってしまうじゃないか。 

 結局、その日はそれ以上何も聞くことができず解散となった。

 

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