第33話 ⑩癒しの天使は雷が怖くてお困りです

 俺は、ふと、窓の外に視線を移した。

 白いものがチラホラと夜空から降ってきていた。

 

「天谷さん、あれ」


 俺は窓の外を指差して言った。

 

「わぁ!雪ですね!」


 天谷さんは窓のところまで駆け寄っていった。

 俺もその後に続く。


「本当に降ってきたな」

「雷を耐えた甲斐がありました」

「あれ?耐えてたっけ?」

「耐えてましたっ!」

「あんなに泣いてたのに?」

「それは、言わない約束ですっ!」


 そう言って、頬を膨らませた天谷さんは窓を開けてベランダに出た。

 冷たい風が部屋の中に入ってきた。

 俺もベランダに出て天谷さんの隣に立った。


「明日には積もりますかね?」

「どうだろうな。この後もずっと降り続いたら積もるかもな」

「積もってほしいですね」

「そうだな」


 雪はしんしんと降り続く。

 俺たちは雪が降るのを静かに見つめていた。

 

「寒くなってきましたね」

 

 天谷さんがこちらチラッと見てそう言った。

 その目は何かを言いたそうな感じだった。

 

「寒いな」


 俺はそう言って、首に巻いてあるマフラーを外し、天谷さんの首に巻き付けた。


「これで、寒くないか?」

「そうじゃないんですよねー」


 天谷さんは唇を尖らせて不満そうに言うと、俺に体を密着させてきて、こうやって巻くんですよとやってみせた。


「どうですか?これなら二人とも温かいでしょ?」

「そ、そうだな……」


 天谷さんは俺と二人マフラーをしてみせた。

 天谷さんの髪の毛からいい匂いが漂ってくる。その匂いは俺も最近よく嗅いでいる匂いだった。 

 俺の体温は次第にどんどんと上がっていった。

 そんな俺にさらに追い打ちをかけてくるように天谷さんは大胆な行動にでた。

 どうやらクリスマスは人を大胆にさせるらしい。

 

「こうしたら、もっと温かくなりますね」


 そう言って、天谷さんは恋人繋ぎをしてきた。

 指と指をしっかりと絡めてくる。 

 少し距離を開けようにも首元には天谷さんと繋がったマフラーが巻かれていて、逃げることはできなかった。

 

「あ、天谷さん、少し積極的すぎませんか?」

「きょ、今日くらい、いいじゃないですか。せっかくのクリスマスなんですよ。少しハメを外すくらい許してください。そ、それに私だって恥ずかしいのを我慢してやってるんですから……」


 天谷さんは真っ赤になった顔をマフラーにうずめた。

 そう言われてしまっては俺は何も言えない。

 こんなに可愛い彼女が恥ずかしいのを我慢してやってくれているのに、俺が我慢しないでどうする。

 俺は天谷さんの手を握り返した。

 

「ゆ、唯川君……」


 天谷さんはマフラーから顔を上げて俺のことを上目遣いに見た。

 そのまっすぐ綺麗な瞳に思わず吸い込まれそうになる。

 このまましてもいいのだろうか……。

 そんな考えが俺の頭の中に一瞬だけよぎった。

 しかし、その一瞬だけよぎった考えは意味のないもになった。

 なぜなら、それを天谷さんの方からしてきたのだから。

 ホワイトクリスマス。 

 この日、俺たちは人生で初めてのキスをした……。


☆☆☆

『癒しの天使は雷が怖くてお困りです』編、終了!

 

 次回から『お見合い編』に入ります。

 

 いや~。ここでキスシーンを書こうとは思っていませんでした笑

 完全に勢いで書いてしまった……笑

 まぁいいか!

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