第32話 ⑨癒しの天使は雷が怖くてお困りです

「じゃあ、そろそろプレゼント交換でもするか?」

「そうですね。すっかりと忘れてましたね」

 

 天谷さんはひょいっと立ち上がって、自室に向かった。

 俺もソファーから立ち上がって、天谷さんに渡すために用意したプレゼントをカバンから取り出した。

 そして、再びソファーに座り直して、俺はさっきのことを思い返していた。

 つい、勢いよく自分の気持ちを告白してしまったが、あれでよかったのだろうか。 

 天谷さんと付き合うことができて嬉しいという気持ちはもちろんある。しかし、それと同時に申し訳ないという気持ちもある。

 俺はまだ天谷さんに言っていないことがある。

 

「一応伝えとかないとな……」


 天谷さんがリビングに戻ってきた。

 その手には赤緑の縞々が入った袋を持っていた。

 今度は隣に座った。


「それじゃあ、メリークリスマス。唯川君」

「メリークリスマス。天谷さん」


 お互いのクリスマスプレゼントを交換した。

 天谷さんのプレゼントは軽かった。

 

「どっちから開けますか?」

「じゃあ、俺から開けてもいい?」

「どうぞ」


 袋を丁寧に開けて中身を取り出した。 

 

「マフラー?」

「はい」


 中に入っていたのは水色のマフラーだった。


「もしかして、手編み?」

「はい」

 

 そういうことか。

 だからあの時、天谷さんは俺にマフラーを買うなって言ったんだな。


「ありがとう。すっごく嬉しい」

「よかったです」

「早速つけてもいい?」

「あ、それだったら、私が……」


 そう言って、天谷さんは俺の手からマフラーを取り上げると、ふんわりと首に巻き付けてくれた。 

 

「どう、ですか?」

「温かいよ……」


 首元だけじゃなくて心まで温かくなった。

 大事な人からのプレゼントがこんなにも心を温めてくれるなんて。

 俺は、マフラーに顔をうずめた。

 そんな俺の行動を見た天谷さんが悪戯っぽく言った。


「ふふ、顔を赤くしてますね」

「う、うるさいっ!」

「喜んでくれたみたいで嬉しいです。じゃあ、次は私が開けてもいいですか?」

「……うん」

 

 天谷さんは俺からのクリスマスプレゼントの箱を丁寧に開けた。

 そして、中に入っているネックレスを取り出して、じっくりと見つめていた。

 もしかして、気に入らなかったか?


「ネックレス、ですね……」

「もしかして、嫌だった?」


 俺がそう聞くと天谷さんは首を横に振った。


「嫌なわけがないでしょう。嬉しいに決まってます!」

「そっか。よかった」

「あの、よかったらつけてもらえませんか?」

「分かった」

 

 天谷さんが手渡してきたネックレスを受け取って、天谷さんに近づく。

 目を閉じている天谷さんの白くて細い首の後ろにゆっくりと手を回してネックレスを付ける。


「ところで、唯川君。ネックレスを人に贈る意味って知ってますか?」

「え、知らないけど……」

「ネックレスには『永遠に繋がっていたい』っていう意味があるんですよ」

「そ、そうなんだ……」

「唯川君は私とずっと一緒にいたいのですか?」


 天谷さんが目をチラッと開けて、俺の目をしっかりと捉えていた。

 

「ま、まぁ、あながち間違ってはないかな」

「へぇ~。そうなのですね」

「い、いいだろ、別に……そう思ったって」

「私はいけないなんて思ってませんよ。むしろ、私も同じ気持ちですから」

「そ、そっか」


 天谷さんもそう思ってくれてるなら、やっぱり言わないとダメだよな。


「ずっと一緒にいましょうね」

「そうだね。そのためにも天谷さんに言っておかないといけないことがあるんだけど」

「なんですか?」

「実は、俺……高校卒業したら、県外の大学に行こうと思ってるんだ」

「そうなんですね。ちなみにどちらに?」


 俺は進学先の大学と将来の夢について天谷さんに話をした。

 

「では、その夢のために、唯川君はその大学に行くと?」

「まぁ、そうなるね」

「なるほどです」

「だから、高校を卒業したら遠距離恋愛になってしまうかもしれない」

「それは、問題ないかと」

「え?」

「その県なら、私の行きたい学部の大学があるでしょうから」

「じゃあ、離れなくてもすむってこと?」

「おそらくは」

 

 そう言って、天谷さんは微笑んだ。 

 それだけが、俺の中で唯一の懸念点だった。

 しかし、それが解消されると分かった今、もう何も心配することはなくなった。


「なんだか唯川君が深刻そうな顔をしていたので、何事かと思いましたが、そんなことでよかったです」

「ごめん。俺、そんな顔してた?」

「はい。こんな顔してましたよ」

 

 天谷さんは俺の顔真似をした。

 その顔があまりにも可愛くて、俺は笑ってしまった。

 

「いやいや、俺、そんな顔しないから」

「いえ、絶対にしてました!」

「とにかくさ、これでなんの心配もなく天谷さんと付き合えるよ」

「私的には、そっちより、お正月の方が心配ですけどね」

「あ、そういえば、そうだったな」

「もぅ、しっかりしてください。彼氏さん」


 その後すぐに俺が告白をして、すっかりと天谷さんのお見合いのことは頭から抜けていた。

 

「一応、お母さんには言っておきます。なので、お正月覚悟しといてくださいね。きっと、いろいろと聞かれると思いますから」

「わ、分かった。覚悟決めとくよ」

「よろしくお願いします」


 これから先も天谷さんと一緒にいれるように、何としても天谷さんのご両親に認めてもらわないとな。 

 もちろん、そのためだったらなんだってする覚悟はできている。

 俺は、ふと、窓の外に視線を移した。

 白いものがチラホラと夜空から降ってきていた。

 

☆☆☆

次回、『癒しの天使は雷が怖くてお困りです』編ラスト!

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