第30話 ⑦癒しの天使は雷が怖くてお困りです
天谷さんの絶品オムライスを堪能した俺は、再びふかふかのソファーに移動して、休憩をしていた。
中途半端になった本を読んでいた。
天谷さんも隣で一緒に本を読んでいる。
なんかいいなこういうの、何だか本当のカップルになったみたいだった。
すっかりと、天谷さんといることが当たり前になりすぎて、自分が今どんな立ち位置にいるのか忘れてしまいそうになる時がある。
俺は、あくまでも天谷さんの彼氏(フリ)なのだ。
決して、彼氏彼女という関係ではない。
今のところは・・・・・・。
もしかしたら、その関係は今夜変わるかもしれないし、変わらないかもしれない、はたまた壊れてしまうかもしれない。
どうなるかは俺には予想はできない。
どれだけ、今、こうして仲が良くても、その関係に亀裂が入る時は一瞬だ。
もしも、亀裂が入ってしまたら、それを元に戻すのは不可能に近いだろう。
それでも、そんな不安を跳ね除けてでも前に進まないといけない時だってあるだろう。
それが、俺にとっては今日なのかもしれない。
天谷さんとの関係に亀裂が入って、2度と話せなくなってしまったら、俺はおそらく立ち直ることができない。それほどまでに、俺の中で天谷紫穂という人間は大きな存在なのだ。
俺は今読んでいた恋愛小説のラストと自分の姿を重ねていた。
この小説のように俺の恋も叶えばいいのに。
そう思いながら俺はそっと本を閉じた。
「読み終わりましたか?」
その気配を察知したのか、天谷さんが本から顔を上げて俺の方を向いた。
「うん。読み終わったよ」
「どうでした?」
「面白かったよ。最後のところは、少しうるっときた」
「そうですか。私もその小説読んで涙を流しました」
「そうなんだ」
天谷さんは読んでいたほんを閉じると立ち上がって言った。
「さて、そろそろケーキタイムにしますか?」
すると、その時・・・・・・。
ピカッとカーテンの奥が光った。
あ、これは・・・・・・。
それから数秒後、怒号が部屋の中に鳴り響いた。
雷の音だった。
「きゃぁ!!!」
次に部屋の中に響いたのは、天谷さんの悲鳴だった。
そうだった。天谷さんは雷が苦手なんだった。
昨日の帰り道のことを思い出して、俺は天谷さんのことを見た。
天谷さんはしゃがみこんで両耳を両手で塞いでいた。その顔は今にも泣きだしそうなほど歪んでいた。
「天谷さん、大丈夫・・・・・・」
ゴロゴロゴロ!
立て続けにもう一度雷が鳴った。
今度はさっきよりも近くに落ちたらしく、音が大きかった。
「いやっ!雷怖いです!」
そう言って、天谷さんは俺の胸に収まるような形で抱きついてきた。手を後ろに回して、俺の服をしっかりと掴んでいる。
「天谷さん大丈夫だって」
「嫌です!怖いので離しません!」
そう言って、天谷さんは抱きしめる腕に力を入れた。
「どこにも行かないし、離さないのはいいんだけどね。それ以上力入れられると、俺が死んじゃうんだけど・・・・・・」
「無理です!唯川君が近くにいるのを感じないと私が死んじゃいます!」
天谷さんは俺のことを上目遣いに見つめた。その目には大粒の涙が浮かんでいた。
「しばらくこのままでは、ダメですか?」
「・・・・・・いいけど、せめてもう少し力を緩めてくれない?」
「・・・・・・致し方なしです」
ほんとうに若干、天谷さんは腕の力を緩めた。
まぁ、さっきよりはマシか。
というか、あまりに急な出来事で気づいていなかったが、この柔らかい感触ってあれだよな・・・・・・。
ソファーよりも卵よりも柔らかなものが俺のお腹の辺りにあたっていた。
「も、もう鳴りません、よね・・・・・・?」
天谷さんがそう言った瞬間に・・・・・・。
もう1度雷が落ちた。
今度はすこし遠かったので、音はさほど大きくはなかった。
しかし、天谷さんをノックアウトさせるには十分だったようだ。
完全に弱りきった天谷さんは、まるで子供みたいに俺の腕に顔を埋めていた。
☆☆☆
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