第20話 ② 私の彼氏(フリ) は勉強が出来なくてお困りです
放課後。
私は1人で電車に乗って『鈴のカフェ』向かっていた。
学校を出るときに、唯川君から連絡が来た。どうやら、お姉ちゃんに呼び出されたらしい。
いつもなら、駅で待ち合わせて一緒に行くのだけど、しょうがない。
お姉ちゃんと唯川君は先生と生徒という関係だった。先生のお姉ちゃんに呼び出されたら生徒の唯川君は行かないわけにはいかないだろう。
「それにしてもどんな要件なんだろう?」
なんだか胸がモヤモヤする。
別に2人の関係を疑っているわけではないけど、なんだろう、少しだけ嫌。
そんな気持ちを抱えながら『鈴のカフェ』に到着した。
更衣室でエプロンを着けて、表にいる鈴村夫妻に挨拶をする。
「今日もよろしくお願いします」
「天谷ちゃんいらっしゃい。今日もよろしくね〜」
凛さんと博さんはいつも優しい笑顔だ。
私はこの笑顔が大好きだった。見ているだけで心がポカポカと温まる。さっきまで心にあったモヤモヤはどこかに飛んでいってしまった。
ホールにはたくさんのお客さんがいた。
今日も大繁盛だ。
その中には私の仕送りを貰ってくれた人たちもいる。
しばらくお客様の対応をしていたら、唯川君がお店にやってきた。
唯川君は私のことを見つけると微笑んでカウンター席に座った。
「いらっしゃい」
「やっと来れたよ」
「ふふ、お疲れの顔してるね。いつものでいい?」
「うん。ありがとう」
唯川君はココアが好きだ。
昔は博さんが淹れたココアを飲んでいたけど、最近は私が淹れたココアを飲むようになってくれた。それが、私は嬉しかった。
そんなに難しい作業はないけど、丁寧に愛を込めていつも作っている。もちろん、他のお客様にもやってるよ?唯川君にはちょびっとだけ愛を多めに淹れてるけど。
「お待たせいたしました」
「ありがとう。この匂い癒される〜」
唯川君はココアの匂いを嗅いでそう言った。
今はホットココアなので、唯川君は、ふうふうをしてから飲んでいた。
「やっぱり、天谷さんのココアが1番美味しい」
「ふふ、ありがとう」
「冷えた体に染み渡る〜」
そう言った唯川君は幸せそうな顔をした。
その顔を見て私は思わず頬を綻ばせた。
「もぅ〜。ちゃんと暖かい格好しないとダメだよ?」
「こんな幸せな気持ちになれるなら、別にいいかな」
「ダメだってば、風邪ひいたらどうするの?」
「その時は看病してくれるんでしょう?彼女さん?」
唯川君は上目遣いで悪戯っぽく笑って言った。
その表情はずるいです。
「そ、そりゃあしますけど・・・・・・」
「じゃあ、やっぱりいいかな」
「ダメですってばっ!ちゃんと次の休みに買いに行きますからね?」
「うん。分かってるよ」
そこで、私はお客様に呼ばれて注文を取りに行った。
それからしばらくは唯川君とお話しすることができなかった。
その間チラチラと唯川君のことを見ていたが勉強をしているようだった。
唯川君の前にはノートと問題集が広げられていた。私の淹れたホットココアを飲みながら問題集を解いていた。
結局、その後1度も唯川君と話すことなく、バイトが終了した。
エプロンを更衣室のロッカーにしまって、裏口で待ってくれているであろう唯川君の元に向かう。
「お待たせしました」
「ん、今日もお疲れ様」
唯川君とあんな関係になってから、唯川君はこうして裏口で私の仕事が終わるのを待ってくれている。
この時間が好きだった。あんな広い部屋で一人暮らしをしていると誰かが迎え入れてくれることが、なんだが嬉しい。
それが、唯川君だと尚更だった。
「ところで、熱心にお勉強をされてましたね」
「あ、見られてたか〜」
「はい。バッチリと」
唯川君は少し恥ずかしそうに後頭部を掻いた。
「実はさ、お姉さんに呼び出されたのもその件なんだよ」
「というと?」
「恥ずかしながら、俺あんまり勉強ができないんだよね」
「そうなのですか?」
「うん」
「なんだか少し意外でした」
「そう?」
「はい」
唯川君が通っている高校も私の高校と同じくらいの偏差値があるはず。
だから、決して勉強ができないってわけじゃないんだろうけど・・・・・・。
「それで、お姉ちゃんに勉強をしろって言われたんですか?」
「まぁ、そんなところかな」
「じゃあ、私がお教えしましょうか?」
「え?」
「勉強は得意なので」
「そうなんだ。じゃあ、教えてもらうかな。せっかくだし」
「はい。任せてください。みっちりと教えてあげます」
「ほ、ほどほどによろしく」
唯川君に家まで送ってもらった。
今日は唯川君と二つも約束をしてしまった。
週末が楽しみになった。
私は唯川君に手を振るとマンションの中に入った。
☆☆☆
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