第19話 ①私の彼氏(フリ) は勉強が出来なくてお困りです
吐く息が白くなって、外はすっかりと寒くなった。
手袋とマフラー、それに厚着が必要な季節だ。
それなのに、隣を歩く彼氏(のフリをしてもらっている。今はまだ)の唯川君は手袋もマフラーもコートも着ていなかった。
「寒くないのですか?」
「まだ、大丈夫かな。それに、手袋とかマフラー持ってないし」
「え、そうなんですか?」
「うん」
「これから、本格的に冬が始まるのに大丈夫なので?」
「どうだろう。たぶん大丈夫なんじゃない?」
「そんな、呑気な。油断してると死んでしまいますよ?」
「それこそ、大袈裟でしょ?」
唯川君は私が冗談で言ったのが分かったらしい。
可笑しそうに笑っていた。
「でも、今年の冬は例年より寒くなるらしいですよ?」
「マジか」
「マジです。なので、買った方がいいかもしれませんね?なんなら、今度の休みにでも一緒に買いに行きますか?」
「よろしくお願いします」
「分かりました」
学校に到着して、唯川君とお別れした。
今日はバイトの日だから、また後で会える。
私は1人下駄箱に向かった。
下駄箱で
夢来ちゃんは真っ赤のマフラーを巻いていた。
「おはようございます。夢来ちゃん」
「おはよう。
夢来ちゃんは私の親友。
中学生の時から仲が良くて、一緒に遊ことも多かった。高校生になって、私がバイトを始めてからはあんまり遊べなくなってしまったけど。
「今日も彼と一緒に来たの?」
「うん」
「そうなんだ。仲良いね」
「仲はいいよ」
「彼氏、だもんね」
「それは・・・・・・」
夢来ちゃんには、唯川君が彼氏のフリだってことは言っていない。
なんだろう、夢来ちゃんの顔が少し暗い気がする。
「もしかして、何かあった?」
「ううん。別に・・・・・・」
「そっか。何かあったらちゃんと言ってね。夢来ちゃんは私の大事な親友だから」
「うん。ごめんね。心配させちゃって」
「ううん。いいよ」
私は夢来ちゃんと一緒に教室に向かった。
クラスは別々だった。来年は一緒になれたらいいんだけど。
せっかく、同じ学校に進学したのに、クラスが別々だからあんまり話す機会がなくて残念。
「紫穂ちゃんは今、楽しい?」
「楽しいかな」
「そっか。ならいいや」
「ん?」
「ごめん。こっちの話。じゃあ、またね。紫穂ちゃん!」
「うん。またね」
夢来ちゃんは私に手を振ると走って自分の教室に向かっていった。去り際の夢来ちゃんの顔はいつもの顔に戻っているように見えた。
私も自分の教室に入った。
クラスメイトは全部で30人。みんな女の子。
クラスに友達はいない。もともと人見知りの私は誰かに話しかけるのが苦手だ。
ある程度、時間をかければ、唯川君や夢来ちゃんのように仲良くはなれるけど、1年という時間は私にとっては短かった。
唯川君には友達にも仕送りをあげていると言ったが、あれはほとんど嘘だったりする。
もちろん、夢来ちゃんにはあげてるけど、それ以外の子にはあげてはいなかった。
自分の席に座って、私は予習をすることにした。
勉強をしている時は、自分の時間に入ることができる。
勉強は昔から好きだった。中学生の時も夢来ちゃん以外の友達はあまりいなかった私はいつも勉強ばかりしていた。そのおかげか、偏差値の高い『私立式部学園』にすんなりと合格することができた。
テストでもいつも上位の成績を修めている。たまに、学年1位を獲ることもあった。
それこそ、中学生の時は『鈴のカフェ』によく通って博さんのココアを飲んで勉強をしていた。
たしか、あの日もこんな寒い日だった。
私が初めて唯川君と出会ったのは今から3年前のことだった。
「きっと、覚えてないんだろうな・・・・・・」
私はボソッとそう呟くとノートにペンを走らせた。
来週にはテストがある。
今回も上位をキープできるように頑張ろう。
担任の先生が教室に入ってくるまで、私は勉強に集中していた。
☆☆☆
私の彼氏(フリ) は勉強が出来なくてお困りです編は天谷視点です!
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