第17話 癒しの天使様は仕送りが多くてお困りです⑨

 

「もしかして・・・・・・お姉ちゃん?」

「はっ・・・・・・」


 天谷さんにそう言われて、我に帰った天谷先生はサングラスをかけ直して、顔を隠すように後ろを向いた。


☆☆☆


 しかし、天谷さんもこの機を逃すまいと、天谷先生の顔を確認するために回り込む。


「お姉ちゃん・・・・・・なんだよね?」


 天谷さんが震えた声でそう言った。

 その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 無理もない、3年振りの再会だ。それに、天谷さんはずっとお姉さんに会いたがっていた。

 涙を流して当然だろう。


「違い・・・・・・ますか?」


 天谷先生は正体を明かすのだろうか。

 俺はその様子を緊張しながら見ていた。

 

「あーもぅ!結局こうなっちゃったじゃない!責任とってよね!唯川君!」

「お、俺ですか・・・・・・」

「あたりまえじゃない!唯川君が私に手伝わせたりするからでしょ!」

「まぁ、確かにそうですけど・・・・・・」

「もぅ!2人で盛り上がらないでくださいっ!」


 俺と天谷先生の間に割り込んできた天谷さんは頬を膨らませた。

 そんな天谷さんを見て、


「可愛い」

「もぅ〜。可愛んだから」


 俺と天谷先生は同時に言った。

 それがなんだか、おかしくて俺は笑ってしまった。

 つられて天谷先生も笑った。

 そして、また天谷さんが怒った。


「もぅ!2人してからかわないでくださいっ!」

「紫穂ちゃんの可愛い顔見たら、なんだかもうどうでもよくなっちゃったわ!」

「お姉ちゃんっ!」

「あはは、ごめんね〜」


 そう言いながら、天谷先生は天谷さんのことを抱きしめた。

 天谷さんは恥ずかしそうに、しかし満更でもない顔をしていた。

 もしかしたら、これでよかったのかもしれない。不慮の事故とはいえ、2人の幸せそうな顔を見て俺はそう思った。

 俺はしばらく2人きりにしてあげようと、博さんのもとに向かった。


「博さん。手伝いますよ」

「ありがとう。じゃあ、これをお願いしようかな」


 博さんからダンボールを受け取って、中身をカウンターの一角、仕送り置き場専用スペースに並べていった。


「貰ってくれる人いますかね」

「きっと、大丈夫ですよ」

「それだといいんですけど」


 提案しといて、貰って行ってくれる人がいなかったら、申し訳ない。


「ちゃんと責任持って配り切りますよ」

「すみません。ありがとうございます」


 本当に博さん様々だ。

 頭が上がらない。

 

「いつか、恩返しさせてください」

「そんなこと気にしなくていいですよ」


 博さんは優しく微笑んだ。

 俺もこんな風に微笑める人になりたいな。


「みんな〜。お昼ご飯ができたわよ〜」


 凛さんがキッチンから戻ってきた。

 天谷姉妹がこっちに来て、カウンター席に3人並んで座った。


「うわー!美味しそうです!」


 隣に座っている天谷さんが目を輝かせて言った。その隣に座っている天谷先生も同じ目をしていた。


「さ、召し上がれ!」


 3人でいただきますをして、凛さん特製パスタを食べ始めた。

 少ししたところで、隣に座っている天谷さんに話しかけた。


「よかったな。再会できて」

「そのことで、聞きたいことがあるんですけど?」


 天谷さんは俺のことを笑顔で見た。

 しかし、その目は笑ってない。

 

「2人は本当はどんな関係で?」

「先生と生徒」

「そうなんですね。いつから、知ってたんですか?」

「天谷さんに彼氏のフリをしてって頼まれた次の日に天谷先生に呼び出されて、教えてもらった」

「そんなに前から・・・・・・」

「あぁ、ごめんな」

「いえ、どうせお姉ちゃんが言うなとか言ったんでしょうから」

「その通りだな」

「でしょうね」


 天谷さんは苦笑いを浮かべて肩を落とした。

 

「お姉ちゃん。ちゃんと、夢を叶えたんですね」

「よかったね。再会できて」

「はい。3年振りに会っても全然変わってませんでした。あの頃のままのお姉ちゃんでした」

「そっか」


 天谷さんは本当に嬉しそうに笑った。


「ちょっと?2人で何話してるの?」

「お姉ちゃんには秘密です!」

「えー!なんでよ〜!」


 天谷先生は変装を解いて、天谷さん好きオーラ全開で頬を膨らませた。


「お姉ちゃんのせいで、再会が遅れたって話です!もっと、早く教えてくれてもよかったのに!」

「ごめんね〜。これからは、ちゃんと連絡するから!」

「それなら、許します」

「ありがとう〜」


 そう言って、天谷先生は天谷さんの腕に抱きついた。

 昼食を食べ終えると、常連さんたちがチラホラと入ってきた。

 みんな、仕送りスペースの目新しさに目を輝かせて、いろいろと持っていってくれた。

 他のお客さんも貰って行ってくれて、今日持ってきた分は夕方頃にはほとんどなくなっていた。


☆☆☆

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