第16話 癒しの天使様は仕送りが多くてお困りです⑧
『鈴のカフェ』に到着して、裏口からダンボールをお店の中に運んでいった。
「博さん。持ってきましたー」
ダンボールをひと通り運び終わると、裏方からカウンターの方に出て博さんに挨拶をした。
開店間際ということもあって、まだお客さんはまばらだった。
「凛さん。唯川君たち来たよー」
博さんがお客さんと話をしていた凛さんに声をかけた。
「いらっしゃい〜」
凛さんはお客さんとの話を切り上げて、こっちに向かってきた。
「あら、随分とたくさん持ってきたのね〜」
「凛さん。すみません、無理言って」
「いいのよ〜。天谷ちゃんのためだもの」
凛さんはそう言って、天谷さんの頭を撫でると、俺たちの後ろに立っている天谷先生のことを見た。
「あら、あなたもしかして・・・・・・」
「は、初めまして。私、文秋君の親戚の舞といいます」
もしかして、凛さん、気づいた?
凛さんが天谷先生に何かを言う前に、天谷先生は先手を打って挨拶をした。
「そう。唯川君の・・・・・・なら、人違いからしら」
なんだか納得していない様子の凛さんだったが、ダンボール箱の中身を見ると興味はそっちに移った。
すご〜い。話には聞いてたけど、本当にいろんなものがあるのね!これ、本当に配っちゃっていいの?」
「はい。私1人では使いきれそうにないので」
天谷さんは苦笑いを浮かべて頷いた。
「でも、なんだか悪いわね〜。そうだ!せっかくだから、お昼食べたいってちょうだいな。お礼も兼ねて腕を振るうわよ〜」
「どうしましょうか?」
天谷さんが俺たちのことを見た。
その目は凛さんの料理を食べたいと言っていた。
「俺はいいけど・・・・・・舞さんはどうしますか?」
「私は・・・・・・」
聞いた後で、しまった、と思った。
天谷先生は絶賛変装中だったことを忘れていた。
さすがに、変装したまま食べるわけにはいかないよな。
天谷先生はものすごく迷った挙句、何かを決心したかのように言った。
「い、一緒に食べさせてもらいます」
「は〜い。じゃあ、作ってくるから、てきとうに座って待っててね〜」
そう言うと凛さんはキッチンへと向かった。
言わずもがな、凛さんは料理上手だ。
『鈴のカフェ』の料理のほとんどは凛さんが担当している。ちなみに、博さんはスイーツと飲み物担当だ。
凛さんが料理を作っている間に、博さんと一緒に持ってきた仕送りの整理をしていった。
天谷さんと博さんはカウンターは向こうで作業をしていた。
その先を見て、俺は天谷先生に近づき小声で話しかけた。
「先生。本当に大丈夫なんですか?」
「仕方ないじゃない。あの空気で私だけ、帰れるわけないでしょ」
「なんか、すみません。まさか、こんなことになるなんて」
「もう、ここまできたらなるようになれよ。バレたらバレたでしょうがないって思うことにするわ」
天谷先生は、はぁ、とため息をついた。
まじで申し訳ないことをしたな。
「ずっと、気になってたんですけど、どうして先生は天谷さんと会うのを躊躇ってるんですか?」
「それは・・・・・・自分を抑えられなくなるからよ」
「へっ?」
「今だって、抱きつきたいのをずっと我慢してるんだから!」
「って、なんですかその理由は!?てっきり、もっと深刻な理由があるのかと・・・・・・」
「ないない。別にそんな理由はないよ」
マジかよ・・・・・・。
今まで変に気を使ってた俺が馬鹿みたいじゃん。
それなら別にバレてもいいじゃねぇか!?
「なら、そんな変装しなくても・・・・・・」
「だって、頑張ってる紫穂ちゃんのことを遠くから見ていたいじゃない!」
「紫穂さんのことを溺愛しすぎでは?」
「可愛んだから仕方ないじゃない!」
「まぁ、それは分かりますけど」
この人も大概、天谷さんのご両親のことを悪く言えない気がするけど・・・・・・。
まぁ、それだけ天谷さんが可愛いってことなんだけどな。
そんな天谷さんがこっちに近づいてきた。
「お2人で何を話しているのですか?」
「ん、天谷さんは可愛いなぁって話をしてた」
「えっ!?な、なんてことを話してるんですか!?私がいないところでそんな話をしないでください!!」
「天谷さんがいたらしてもいいの?」
「い、いいわけないじゃないですか!!唯川君のバカっ!」
天谷さんは耳まで真っ赤にして、その場にしゃがみ込んでしまった。
ゴゴゴ・・・・・・。
後ろから物凄い殺気を感じるのは気のせいだろうか・・・・・・。
恐る恐る、振り返ると天谷先生はサングラスを外して、俺のことを睨みつけていた。
ヤバい・・・・・・殺される・・・・・・。
今すぐ逃げ出したかったが、体が動かなかった。
「唯川君?あなた、一体何をしているのかしら?」
「・・・・・・」
「あなたは紫穂ちゃんの彼氏のフリをしているだけよね?どうして、紫穂ちゃんにそんなことを言っているのかしら?紫穂ちゃんを照れさせていいのは私だけなんだけど?」
すっかりと別人を演じていることを忘れた、天谷先生はそう言いながら俺に近づいてくる。
その距離、数センチ。天谷先生の顔が間近に。
「紫穂ちゃんは、私にとって大事な大事な妹なのよ!唯川君になんか渡さないからね?」
「妹・・・・・・」
俺と天谷先生のやりとりをすぐそばで聞いていた天谷さんがそう呟いた。
その瞬間、天谷先生の顔から血の気が引いたのが分かった。
そりゃあ、あれだけ名前を連呼して、妹、なんて言ったら、バレるだろうに。
天谷さんがゆっくりと立ち上がって、俺と天谷先生の間に入った。
「もしかして・・・・・・お姉ちゃん?」
「はっ・・・・・・」
天谷さんにそう言われて、我に帰った天谷先生はサングラスをかけ直して、顔を隠すように後ろを向いた。
☆☆☆
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