第9話 癒しの天使様は仕送りが多くてお困りです①
天谷さんが『鈴のカフェ』から出てくるのを裏口で待っていた。
秋の夜は肌寒い。
ジッとしていると、手足の先が冷たくなってくる。
俺はスマホで時刻を確認した。
「そろそろ出てくるころかな」
そう思っていたら、裏口の扉が開いて天谷さんが出てきた。
「お待たせしました」
「ん、お疲れさん」
「それじゃあ、帰りましょうか」
電車に乗るために駅に向かって歩き出した。
歩いていると少しずつ体は温まっていく。
「もうすぐ冬ですね」
「そうだな」
「ところで唯川さん。お2人とどんな話をされてたんですか?」
「見てたのか」
「見てましたね」
「そうか」
俺は鈴村夫妻と話したことを天谷さんにも話した。
もちろん、俺が涙を流したことは隠して……。
「凛さんがそんなことを……」
「うん。どうしたらいいと思う?」
「そうですね。何かしてあげれたらいんでしょうけど……すぐには思いつきませんね」
「だよな。ところで、来年、『鈴のカフェ』10周年って知ってた?」
「もちろん知ってますよ」
「さすがだな」
「何年、『鈴のカフェ』に通い続けてると思ってるんですか」
天谷さんは、えっへん、と胸を張った。
可愛いな!?
癒しありがとうございます!
「あのカフェに通い続けて5年ですよ。私はあのカフェと一緒に育ってきたといっても過言ではありません」
「それは、少し過言じゃないか?」
「いいんですっ!少しくらい!」
今度は唇を尖らせて、頬をぶくっと膨らませ不満顔。
そんな顔すら癒しなんだが!
「なんですかそのにやけ顔は!?」
「いや、どんな顔をしても天谷さんは可愛いなと思ってな」
「う、うるさいですっ!」
天谷さんは可愛らしいパンチを俺の二の腕に何度かくらわせてきた。
もちろん、まったく痛くない。
俺はまたニヤけてしまった。
「私をからかってくる唯川さんには手伝ってもらいますからねっ!」
「何を?」
「それは私の家に着いてから教えます。とりあえず、困っているとだけ言っておきます」
「困っていると聞いては断れないな」
もともと、断るつもりなんか微塵もないがな。
電車に乗り、1駅移動して天谷さんの住んでいる高層マンションに着いた。
「じゃあ、行きましょうか」
「え?俺も行っていいの?」
「もちろんですよ。というか、家まで来てもらわないと困るんです」
「そ、そうか……」
本当にお邪魔していいのだろうか……。
そんな気持ちを抱きながらも天谷さんと一緒にエレベーターに乗った。
天谷さんは15階のボタンを押した。
「15階……」
「はい。15階に住んでます」
「凄いな」
「そうなんですかね?親に勧められてここに住んでいるだけなので」
「そうなんだ」
「はい。あ、着きました」
エレベータが15階に到着した。
天谷さんの後について歩く。
「ここです」
部屋の前に到着し、天谷さんが鍵を開けた。
「さ、入ってください」
「お、お邪魔します」
俺は緊張しながら、玄関先に上がった。
「唯川さんは靴、そのままで大丈夫ですよ」
と言いつつ、天谷さんは靴箱に自分の靴をしまった。
靴箱の中は綺麗に整理整頓されていた。
俺は靴をそろえて家の中にあがった。
「ついてきてください」
「わ、分かった」
天谷さんの後をついていくとリビングに通された。
玄関からリビングに廊下の途中には4つの扉があった。
「ここがリビングです」
「広っ・・・・・・」
おそらく、俺の家のリビングの2倍くらいはあるリビングはの床は一面が真っ白な大理石だった。
ツルツルに輝いた真っ白な大理石が目に眩しい。
そんなリビングに置かれている家具はテレビとテーブル以外は水色で統一されていた。
大きなソファーに本棚。カーテンに椅子。食器棚まで水色だった。
広いリビングに置かれている家具はそれだけ。
後は数枚絵が飾ってあったり、高そうな花瓶が置いてある。その花瓶には真っ赤な薔薇が一輪飾られていた。
「私は着替えてきますので、ソファーにでも座って待っててください」
「うん。分かった」
天谷さんはリビングから出て行き、俺はソファーに腰を下ろすが、
「おちつかねぇ・・・・・・」
家で座っているソファーよりもふかふかで座り心地最高のソファー。初めての女性のお家に訪問。だだっ広いリビング。
何もかもが俺をそわそわとさせてくる。
ソファーに座っていても落ち着かなかったが、かといって歩き回るのも失礼な気がするし、どうしたものか。
結局、そわさわとした気持ちを抱えたまま天谷さんが戻ってくるのをソファーに座って待つことにした。
「お待たせしました」
再びリビングに戻ってきた天谷さんは部屋着姿だった。
水色のモコモコしてて可愛らしいパーカーと水色と白色縞々模様の入った短パン。
パーカーは袖の長さがあっていないのか、萌え袖状態になっていた。
短パンから真っ白ですらっとした足が伸びていた。スカートの時とは違い太もものあたりまで見えて、非常に目のやり場に困る。
それにしても、可愛すぎるんだが!?
「か、可愛い部屋着だな」
「そうですか?ありがとうございます」
俺がぎこちなく褒めると天谷さんは少し恥ずかしそうに苦笑いを浮かべた。
「で、俺に手伝ってほしいことっていうのは、何なんだ?」
「そうでした!今、案内しますね。ついてきてください」
天谷さんと一緒に廊下に出た。
そして、リビング側から見て、左側にある1番目の扉の前に向かった。
「実はですね・・・・・・唯川さんに助けてもらいたいのは、これなんです・・・・・・」
そう言って、天谷さんはその扉を開けた。
俺の目に写ったのは、部屋の真ん中に置かれた大量のダンボールの山だった。
「これは・・・・・・?」
「実はですね・・・・・・これ全部、両親からの仕送りなんです・・・・・・」
☆☆☆
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