第10話 癒しの天使様は仕送りが多くてお困りです②
「実はですね・・・・・・唯川さんに助けてもらいたいのは、これなんです・・・・・・」
そう言って、天谷さんはその扉を開けた。
俺の目に写ったのは、部屋の真ん中に置かれた大量のダンボールの山だった。
「これは・・・・・・?」
「実はですね・・・・・・これ全部、両親からの仕送りなんです・・・・・・」
☆☆☆
10箱は余裕に超えるだろうダンボールの数に俺は目を疑った。
俺も親から仕送りはしてもらっているけど、せいぜい1ヶ月に1回程度で、多くてもダンポールの数は2個だ。
「えっとこれは・・・・・・?」
俺は驚きすぎてもう1度聞いてしまった。
「仕送りです」
「・・・・・・これ全部?」
「・・・・・・ですね」
「マジか・・・・・・」
天谷さんは部屋の中に入って、ダンボールを1つ開けた。
その中にはびっしりと本が入っていた。
どうやら、食料以外の物も送ってきているらしい。
「私の両親、毎週送ってくるんです」
「送りすぎだろ・・・・・・」
「ですよね。私もそう思います」
「物には限度ってものが・・・・・・」
「ありますよね」
天谷さんは心底困ったような顔でため息をついた。
ダンボールの中にはレトルト食品も入っており、この部屋にあるレトルト食品だけで数ヶ月は待つんじゃないだろうかと思った。
「過保護すぎるんですよ。私の両親」
「・・・・・・うん。これ見たら分かるわ」
「それで、お姉ちゃん、家から出て行っちゃって」
「そ、そうなんだ」
天谷さんの方からお姉ちゃんという言葉が出てきて、俺はドキッとした。
俺が天谷姉と知り合いなことを天谷さんは知らない。
天谷先生からは、俺との関係がバレないようにと釘を刺されている。
うっかり口を滑らさないようにしないとな・・・・・・。
「今どこで何してるんだろう。会いたいなぁ」
「会わなくなってどのくらい経つんだ?」
「3年です。私が中2の時に出て行っちゃって」
「そっか・・・・・・」
天谷先生と話が合う。
本当なんだな・・・・・・。
天谷先生が天谷さんのお姉さんっていうのは。
もちろん、疑ってはなかったけど。
「会って話したいことたくさんあるのに〜」
うぅ・・・・・・。
言いたい。天谷さんのお姉さんの居場所を知ってるって言いたい。
こんなに寂しそうな天谷さんの顔を見るのは初めてだった。
「すみません。話が逸れましたね」
「ううん。大丈夫」
「本題に戻ります。唯川さんに手伝ってもらいたいのは、この仕送りの消費です」
「うん、無理だな」
「そんな、即答しないでくださいよぅ。困ってるんですから」
「いや、親にしばらく仕送りはいいって言いなよ」
「それで止まったら苦労しませんよ」
「なるほど、実践済みというわけですか」
天谷さんは力なく頷いた。
天谷さんの親は俺の思っている以上に過保護のようだ。よっぽど、天谷さんのことが可愛いんだろうな。まぁ、その気持ちには賛同だけど。
「なので、お願いです。手伝ってください」
「うん。手伝うのは手伝うんだけどね。流石に俺だけではどうしようもなくない?」
「それは・・・・・・そうなんですけど」
「天谷さんの友達とかには?」
「あげてます」
「そっか」
「それでも、まだこれだけ残ってるんです」
改めてダンボールの多さを実感する。
どうしたものか・・・・・・。
俺に友達が100人でもいれば、すぐにでも無くなるんだろうけど、あいにくそんな友達はいない。
というか、友達と呼べる相手は1人もいない。鳴瀧は友達というか、勝手に俺にちょっかいを出してくる相手って感じだしな。
「とりあえず、もらえる物はもらって帰るよ」
「ありがとうございます」
「見てもいい?」
「どうぞ。好きなだけ見ていってください」
ダンボール箱を1個ずつ開けて見るには、かなり時間がかかりそうだったので、天谷さんに何があるかを聞きながら、とりあえずカバンに入るだけの物(本を数冊とレトルト食品を少々)をもらって帰ることにした。
「化粧品とかもあるんだな」
「ですね」
「それは、さすがにもらって帰れないな」
「ボディーソープとかはどうですか?シャンプーとかもありますよ?」
「まだ、残ってるんだよな〜。使い切ったらもらうよ」
「ですよ。こういうのって、すぐにはなくならないですよね」
ダンボール箱の中にはシャンプーなどの詰め替え品が20個ほど入っていた。
いや、ありすぎだろ!?
これだけで、何ヶ月もつんだ・・・・・・。
「大変だな」
「はい。でも、仕方ないです。無下にはできないですから」
「そっか」
「私のことを思って、送ってきてくれているので」
何か策を考えてあげたいな・・・・・・。
天谷先生とかもらってくれないだろうか?
家に帰ったら考えてみるか。
「ちょくちょく、もらいにくるよ」
「はい。そうしてくれると助かります」
「レトルト食品なら、楽だし、俺も助かるよ」
「唯川さんは料理はされないので?」
「夜は作るようにしてる。お昼まではさすがに時間なくて、いつもコンビニで何か買ってる」
「そうなんですね」
毎日1人分の料理を作るのは大変だからな。たまには、レトルト食品で楽をするのもいいだろう。
「天谷さんは、料理するの?」
「はい。昼も夜も作りますよ」
「そうなんだ。凄いな。でも、それだとレトルト食品とか食べる機会なさそうだな」
「そうなんですよね」
「ご両親は天谷さんが自炊してること知らないのか?」
「一応、伝えてはいるんですけどね・・・・・・」
それでも、送ってくるってことか。
てか、そこまでいくと過保護っていうより、迷惑って感じたな。
普通、知ってるなら送ってこないだろ。
「包丁で指でも切ったらどうすんだって、送ってくるんですよ」
「あ、そういうことね」
「まったく、私はもう子供じゃないんですよぅ〜。そりゃあ、子供の頃は何回か切りそうになったこともありましたけど、今は1回も切ったことないのに」
天谷さんは頬を膨らませて、不満顔で愚痴った。
子供の頃の天谷はさんも天使だったんだろうな、と俺は見当違いなことを思っていた。
絶対に可愛いんだろうな〜。
写真とか見てみたいな〜。
「私だって成長してるもん。って、唯川さん?聞いてますか?」
「え、あ、うん。聞いてるよ。今は指切らないって話だろ」
「そうです」
「まぁ、親からしたらいつまで経っても子供は子供のままだからな。それに、天谷さんは可愛いし、手だって綺麗だし、怪我させたくないって、ご両親の気持ちもわかるけどな」
「もぅ!唯川さんは、どっちの味方なんですか!?」
「どっちも?」
「唯川さんは、私の味方でいてください!彼氏なんですからっ!」
「わ、分かった。彼氏のフリだけどな・・・・・・」
天谷さんは体育座りをすると、パーカーを被って、足の間に顔を
もしかして、不貞腐れた・・・・・・。
てか、そのパーカーそんなに可愛かったの!?
天谷さんの頭にはうさぎの耳が生えていた。
俺は天谷さんの隣に座って頭を撫でた。
「おーい。機嫌直してって。俺はいつでも天谷さんの味方だって」
「本当ですか?」
顔を少しだけあげ、上目遣いで俺のことを見つめるうさぎの耳のついたパーカーを被った天谷さん。
その可愛さは俺の心臓をギュッと握りつぶした。
ヤバい・・・・・・。可愛すぎる・・・・・・。
写真に収めてずっと眺めていたい・・・・・・。
「うん。だから、写真撮ってもいい?」
「ダメに決まってるじゃないですか!?」
天谷さんは、顔を真っ赤にすると再び足の間に埋めてしまった。
「・・・・・・唯川君のバカ」
それから、10分程、天谷さんはその状態だった。
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