第22話 と言う事で、イヴェンタの科学者の登場です。

 どんなに小さな戦力でも束になれば戦力は何倍にも増す。1+1は1よりも小さくはならない。そこの計算にその数よりも大きな数が足されればどうなると思う?


 私はその答えを導き出した。元々科学者を目指し日々研究を積み重ねてきた私はある日、実験中の爆発に巻き込まれて死んでしまい、そしてこのイヴェンタに辿り着いた。その時に良く解らない連中二人からもらった力は元よりも更に高い知力。私は自分を強くしてどうこうとか、戦力とかはどうでも良い。ただただ高知脳の頭脳を求める。それが私の全うだ。


 イヴェンタで右も左も解らぬままに途方に暮れていた時、彼等を見付けた。それが今の仲間でありパーティーのジータ、ソニーラ、フーゴ、リミナ、ジダーニの五人。皆が皆が自分勝手の行動を取る為、特に活躍する事も目立つ事も無かったらしい。いつも喧嘩をしてはギクシャクしている連中に深く興味を持った私は連中のパーティーに加入した。


 そして私が加入した途端、このパーティーは驚くべき進化を見せた。私の指示と戦略で行動を取り、彼等の戦力で獲物を倒す。正直、思ってたよりも効果は抜群だったわ。今や名は知られてないものの戦力は桁違い。インパイアデビルズコングレベルの魔獣ならばその辺の冒険者や能力者のパーティーよりも早く討伐できる。


 元の研究者と言う目標よりもこのパーティーの強化と言う目標を追い掛ける様になった。そして今日。魔王討伐の依頼を引き受けここに来た。本音を出せば今日の依頼も今後の目標達成の踏み台としか思っていない。魔王を討伐して名を広めて、私達は時の人になる。


 けど、どう言う事か、その魔王の所へ辿り着いた矢先、戦うのではなく遊びで解決しようとしている。何を考えているの?ま、そんな事も考察する間でもない。勝負に勝てば良いだけ。私のパーティーを嘗めない方が良いわよ…!!魔王様…!!


………………………………………………。


 俺はボールを持ったまま動けなかった。理解が追い付かずに混乱していたからだ。


 状況を整理しろ。考えるんだ。まず異国の民であるセシル以外は戦力があるとは言え、俺、レイド、ゼータの三人で掛かれば勝てるぐらいだ。しかし、問題は異国の民であるセシル。奴の潜在能力に《知力》《即理解》《戦略》の三つがあった。


 まさか…あの女、この三つで今の現状を作ってるって言うのか…!!もしそうだとしたら、俺はとんだ大馬鹿者だったぜ…!!

 戦力的に見てもセシルは戦闘向けではない…。となると、奴は指示役…?そんでもって他の五人がその指示に従って行動する…。


 それしかあり得なくないか…?だって言っちゃ悪いが、アイツ等一人一人の戦力は正直弱い。さっきも言ったが俺とレイド、ゼータで掛かれば瞬時に勝利を手にする事が出来る。だけど、あのステータスでこの戦力は足し算として考えれば納得がいく。微弱な戦力+微弱な戦力。それに戦略を掛け算すれば成り立つじゃねぇか…!!


 もしもそうじゃないとしても、今はそれを信じるしかねぇ…!!こう言う時、リーナさんの情報凝視があれば…!!


 反射的にリーナさんを見る。さっきまで冷や汗を少し流し、動揺している様にも見えたリーナさんが俺の目を見て静かに頷いた。どうやら俺の読みは当たったらしい。後は…奴等の戦略をどう潜り抜けるか…だな…!!

 周りからすれば何の変哲もない時間だったのだろうが、俺からすればめちゃくちゃ長く感じた。


 外野に行こうとしたメイの肩を軽く掴みこっちに引き寄せ耳元で静かに相手チームの戦略やこっちのチームの戦法囁いた。メイは顔を赤くして「ひゃ、ひゃい!」と言って外野に行ったが、ちゃんと聞いてたのか?


 メイが外野に着くと、俺の隣にいたレイドに聞こえるか聞こえないかの声で俺の戦法を呟く。レイドは軽く頷き気付いていないフリをしてくれた。


 外野のゼータと目を合わせる。ゼータは俺に気付き「わかった」と言わんばかりに目線を向ける。俺の考えとゼータの考えが合ってるかは解らんが、ここで戦略を話す訳にはいかねぇ…。奴等に勘付かれでもすりゃ元も子もないからな。


 俺はフルパワーでボールを投げる。上に投げればリミナがジャンプでキャッチするかもしれない。ここはあまり軽率に行動しない方が良い。俺の手から離れたボールは勢い良くゼータに一直線に飛んでいく。だが、外野の寸前でジダーニに止められた。

 ジダーニが先程と同じ様なポーズで腕をフルスイングする。放たれたボールが紫の覇気を纏い宛ら隕石の様な勢いで飛んでくる。俺達はそれを避けて…って、え?何…今の?紫の覇気…?ほぇ?


 状況を理解しようとする。しかしボールはソニーラに渡され、ソニーラはパワーを溜めながら狙いを定める。そして投げたボールには青い覇気を纏い、凄まじい勢いでセイナに当たり、セイナがアウトになった。


 …ってぇぇぇぇぇ!?今の絶対に個々人の能力だよね!?そんなのアリ!?


 焦りながら抗議を始める。



千智「ちょ、ちょっと待てよ!!ボールを投げる時に能力出すのは反則だろ!?」



 するとまたしてもセシルがメガネを中指でクイっと上げ、鋭い眼光を放ちながら俺達に向かって反論する。



セシル「貴方が言ったルールに、【能力は使っちゃいけない】なんて台詞なかったわよ?だったら、これもアリなんじゃないかしら?」



 憎たらしくクスクスと笑いながら俺達を見下す。


 …なるほど?なら良いだろう…!!見せてやるよ…俺達の底力をな…!! 


~20分後~


 何とかここまで追い込めた…!!今の状況は敵チームのコート内人数がフーゴとジータの二人、こっちが俺一人。


 色々な戦法を使った。とりあえず奴等の女メンバーは全員こっちの味方だ。見てみろよ。あの通りだ。



ソニーラ「ジータ!!フーゴ!!その人に何かしたら絶対に許さないからなッ!!」


リミナ「後から一緒にお茶するって約束忘れないでね!!」



 ほらな?二人ともすげぇ威勢で俺達の応援をしてくれてるぜ。それに、セシルも…!!



セシル「くっ…!!この私が魔王なんかに…!!」



 見てろ。今から面白いもん見せてやる。


 俺は眉を潜めながらも軽く微笑み少し角度を付けてセシルと目を合わせる。



千智「いや、俺は皆に好意を持ってもらおうとしてるんじゃない。皆に解って欲しいんだ。俺が魔王じゃないって事を…。」


セシル「あひゅぅん///!!」



 な?効果は抜群だったぜ。《色気》《魅力》《誘惑》《NTR》があって良かった。


 これに対してジータが声を荒げながら抗議する。



ジータ「てめぇ!!俺等の仲間を手駒にするのは違ぇだろッ!!」



 何を怒っているんだ?俺は何もしていないぜ?あんた等がやってた様に、力を使ったってだけさ…!!


 今更ルール改正なんかさせるかよ!!


 俺は外野のリミナを見つめ、落ち着いた様子で一言声を掛ける。



千智「リミナ。どうやら君の仲間は俺を本気で殺すみたいだ。もし俺がいなくなったら…その時は、さっきの約束ごと俺を記憶から消してくれ…。」


リミナ「嫌だ…!!嫌だよ!!そんなの…嫌だよ!!」



 リミナが泣いている。何か楽しいなコレ。そんな様子を見ながらジータとフーゴは悔しげな表情で俺を睨む。


 …それにしても、さっきからリーナさんの視線が痛く突き刺さってるな…。ま、今気にしている場合でもないか。

 ボールは俺が持っている。さてと、最終ラウンドの開始だな…!!


 ジータとフーゴは身構え、俺の動きとボールをガン見している。ジダーニは飽きたのか外野で筋トレを始めた。好都合だ。ありがとう。

 ボールを投げる。さっきから色んな能力を乗せて投げるが、奴等のタフさが凄まじい。割とすんなりとキャッチされる。幻覚とかそう言うのを使えれば便利だが、正直この状況で別の能力を育てられねぇ。


 ジータが勢いを付けて俺にボールを…って、ん?


 あ、尺が足らねぇや。ちょっと待ってて!すぐに次の話に移るから!!

 じゃあ23話で会おうぜ!!


 

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