第11話 と言う事で、新たなる才能の芽生えました。

 今の俺には武器は無い。…だったら遠方から攻撃すりゃいい…!!


 シミュレーションの時みてぇにな…!!


 低く体制を構え、右手を体より後に持っていき、頭の中で水魔力を連想させる。

 レイドが大剣を握り、こっちに向かって走ってくる。それは獲物に食らい付いてくる野獣の様にも見えた。


 怖じ気付くんじゃねぇ…!!


 お前は何がしたくてチート能力もらって主人公になったんだ…!!


 その答えをコイツに勝って見せてみろよ…!!



レイド「終わりにしようぜぇッ!!」


千智「ハァァァァァッ!!」



 レイドに向かって水の攻撃玉を投げる。

 玉は勢い良くレイドに当たり爆発する。威力は相当なものだったのだろう。


 まぁ撃ち込んだ俺が理解してないのはおかしいけど…だって慣れてないんだもん!!しょうがないじゃん!!


 しかし煙の中からレイドの姿が見える。



レイド「ハハハッ!!その程度の攻撃が通用するとでも思ったか!!」



 …やったわ。たぶんトップレベルにやっちゃいけない展開だわ。これじゃあまるで少年誌のバトル漫画で見るウルトラ在り来りな展開だ。


 って違ぁぁぁぁぁぁうッ!!


 在り来りを無くすのが目標なのに、一番良く見る展開を作ってどうすんだ!!(汗)

 別の意味で動揺してる。展開を作るのはこんなにも難しい事だなんて…!!クッ…俺としたことが…!!

 悔しげな表情で冷や汗を流す俺を見てレイドは笑いながら言った。



レイド「火神族の俺に水魔力で対抗しようと考えたんだろうが、てめぇ如きの魔力なら俺の火力で打ち消せるんだよ!!俺を倒したければな、俺を越える力で対抗するんだなッ!!ザコがッ!!」



 今何て言った?

 俺を倒したければ俺の火力を越える力で対抗するんだな?


 …頭を稲妻が走り抜ける。


 あんた、良いこと教えてくれたな。

 確かに俺の水魔力で今のあんたに勝つのは無理だ。でもな、俺にはあんたを越える力があるんだよ…!!

 それは…【打撃魔力】だ…!!

 確信した。恐らくこの【打撃魔力】を所持しているのは俺ぐらいだ。ならば、奴はこの魔力を持っていない。


 したがって、アイツに俺の特殊魔力をぶち込めば、奴は火力で圧されるだろ…!!


 簡単だった。実に簡単だったぜ。


 さっきの言葉、お前にそのまま打ち返してやる…!!


 ニヤリと笑いレイドを睨む俺を見て、リーナさんは落ち着いた様子で俺に話し掛けてきた。



リーナ「考えたわね。」


千智「へへ…!!野郎が教えてくれたんすよ…!!」


リーナ「味方にするなら、殺さない程度にね…。」


千智「任せてください…!!」



 レイドが俺に向かって再び走ってくる。


 …あんたから来てくれるとは…ありがてぇな…!!


 戦いに慣れてねぇから、俺から攻撃するとしてもどうして良いか正直解らねぇからな…!!


 単細胞の脳ミソで助かったぜ…!!



 レイド「うおぉぉぉぉぉッ!!」



 気合い入ってるな…!!


 ならば、俺もその気合いに負ける訳にはいかねぇ…!!


 こちらに勢い良く走るレイドに対し、俺も全速力でレイドに向かって走る。

 表情や態度に余裕が出てきたのが自分でも解

る!!


 足の軽さがさっきとは全然違ぇ…!!



レイド「今度こそ終わりだッ!!」



 奴の剣を良く見ろ…!!


 振り下ろされるギリギリで交わして後に回るんだ…!!


 そしてレイドに近付いた。案の定レイドは俺に大剣を思いっきり振り下ろしてくる。

 その動きを見切り斜め前に飛び込み、攻撃を交わした。



レイド「なッ…!!」



 思わぬ方向に飛び込んだ俺に動揺したのだろう。前方と大剣しか見ていなかった目が俺を追い掛けるのに必死になっていやがる。

 チャンスは今しかない。前に転がり直ぐ様体制を立て直す。


 この勝負はもらったぜ…レイドッ!!



レイド「コイツ…!!」


千智「鉄ッッッッ拳ッッッ!!!」



 レイドがこっちに振り向く瞬間、奴に出来た微かな隙を狙って顔面に打撃をぶち込む。

 死なない程度がどのぐらいか解らないが、シミュレーションの時にゴーレムに放った打撃よりかは力を抜いたつもりだ。


 さすがにhardモードのゴーレムが粉々になる様なパンチ撃ったら俺よりもレベルが高いとは言え、死ぬか死にかけるだろうからな。

 それにコイツが振り向いた時の勢いに俺のパンチの勢いが掛けられるから力もそれなりには上がるはずだ。


 シミュレーションの時とは違った痛みが拳を駆け抜ける。

 痛ぇ…痛ぇけど、目の前の現実を見りゃ、そんな痛みも忘れ去られるぜ…!!



レイド「グハッ…!!」



 レイドが白目を向いて地面に倒れた。


 …初めてシミュレーション以外の敵に勝てた…!!相手の属性とか関係なかったけど、勝てたんだ…!!


 しかし見事な倒れっぷりと漫画の様な白目だな。

 口からヨダレまで垂れてやがる…。


 …いや汚ねぇな。


 おっと、そんな事よりも、コイツが生きてるかどうかを確認しねぇと。


 レイドを抱え心臓と手首に手を当てる。


 ………脈は打ってるし心臓も動いてる。


 どうやらただの気絶みてぇだな。

 ホッと一安心した俺にリーナさんが近付いて言った。



リーナ「で、これからどうするの?」


千智「…とりあえず縛り上げて目を覚ますのを待ちましょうか。」



 レイドを縛り上げ、城の門付近に座らせ目を覚ますのを待っていた。

 しかし、数分もしない内にレイドが目を覚ます。



レイド「…俺は…はッ!!」


千智「目ぇ覚ましたか?」



 レイドは動揺していた。 

 まぁ無理もないか。さっきまで戦ってたのに目を覚ましたら敵に縛り上げられてんだもんな。

 俺なら普通にちびって謝るかもしれん。

 動揺で焦りを見せるレイドに俺は話し掛ける。



レイド「は、放せ!!」


千智「まぁ落ち着けって。何もしやしねぇよ。」


レイド「チッ!!こんなもん!!」



 レイドが火魔力を上昇させ、自身を縛っていた拘束具を打ち破ろうとする。

 だがいくら火魔力を上げても拘束具が壊れる訳ない。

 何たって、紐やロープなら燃やされると思ったから念の為鎖にしていたからだ。



レイド「ちくしょう…!!うわっアッツ!!」


千智「だから落ち着けって。」



 レイドは自ら熱した鎖に悶絶する。 

 それを見た俺は水魔力をレイドにかけ、鎖を冷やすと共に火傷を軽減させる。


 しっかし熱そうだったな。鎖が当たってた部分が鎖の形に赤くなっていやがる。

 いや今は関係ないか。

 何故か自分でもビックリするぐらい冷静沈着だな。


 …どうしたんだろ?俺。


 そんな事を考えている俺を睨み付けレイドは威圧の声で喋る。



レイド「俺を殺すのか…!!」


千智「…なぁ、俺ってそんなに悪そうな奴に見える?」


レイド「そりゃそうだろ!!平和な国に突如として現れた魔王だろうが!!」



 現れたじゃなくて、擦り付けなれた。なんだけどね。

 呆れ顔で溜め息を付く俺を見て、レイドが死を確信したかの様に続けた。



レイド「例え俺が死んでも他の冒険者や神族がお前を討伐しにくるからな…!!」


千智「あのぉ、そんな事はまぁ置いといてさ、俺の仲間にならん?」


レイド「は、はぁ?」



 レイドが「お前マジで何言ってんの?」って顔で俺を見てくる。


 …まぁそうか。さっきまで戦ってた敵からいきなり仲間になろうって言われたら誰だってそうなるか。

 とは言え本当に仲間になってもらわないと後々俺が困ることになるからな。


 俺はレイドの肩に手を回し話す。

 レイドは当たり前の様に俺を睨みまくる。


レイド「クッ!!」


千智「まぁ落ち着けよぉ~。それよりさぁ~、俺、あんた等の所に現れたミリリアって奴にハメられたんだよなぁ~。」


レイド「ハメられた…?」


千智「そうなんだよぉ~。しかも、あんた等もその一員なんだぜ?」


レイド「俺達も…!?」



 はい~食らい付いたぁ~。


 ここからこっちのペースに乗せればいけるぞコレ。

 変わることなく、俺はレイドに眉をひそめ少し悲しい顔をしながら語り続ける。



千智「俺だって…俺だってこんな手荒な真似はしたくない…!!でも…この国の人々を救う為なら…!!」


レイド「お前…!!」


千智「あのミリリアの魔の手からあんた達を助ける為に…グスン…俺は血の滲む様な思いで~ッ!!う"わ"ぁ"ぁ"ん"!!」



 迫真の演技だな。涙まで出てきやがる。


 …ってか俺、こんなに演技上手かったっけ?


 初めて泣き真似でガチの涙流して鼻水垂らしたぞ。

 とりあえずそんな事は後からでいい。今はコイツをこっち側の人間にするのが先手だ。

 引き続き泣きながらレイドに語る。

 

 

千智「だから…グスン…あんた等が俺の味方になってくれれば…グスン…俺は無実の罪を晴らすことも出来るし…グスン…皆を助けることが出来るんだ…!!」


レイド「俺達を…!!」


千智「無実な魔王に…グスン…無慈悲にも苦痛を与えてくるのは許すから…!!」

 

レイド「千智…!!」



 今俺の事を名前で読んだね?読んだよね?

 よし。畳み掛けるぞ。

 肩から手を離し、その場に立つとレイドの前まで歩き、後ろ姿を見せたまま最後の台詞を決める。



千智「…無理にとは言わないけど…これ以上平和を乱したくないのであれば…俺の…この葛城千智の…味方になってくれ…。」



 うっすらと涙を見せ軽く振り向きレイドに台詞を放った。

 するとレイドは鎖に繋がれた状態で立ち上がり懸命な顔で俺に言った。



レイド「千智…!!俺で良ければ…協力させてくれ…!!」


千智「レイド…!!」


レイド「俺が間違えていた…!!相手の事を知らずに…あんなギルドの依頼を受けて…!!」


千智「レイド…!!」



 はい~!!決まりまし…タッ!!


 表の顔は泣き笑いで感動的展開を産んでいるが、内心の俺はこの通り最高の気分だ。

 おっと待て待て、あくまでも真剣に仲間を増やしている訳であって騙したり悪事を働いている訳ではないぞ。そこんとこは勘違いしないでくれよ。

 まぁ、あれだ。要するに、敵に誤解を解く時のやり方はこう言うのもあるって事だな!!


 それは置いておいて、とりあえずレイドはこっち側の人間になったな。

 ま、レイドも反省してる感じだし、もう少しこのままの表情と感情でいるとするか。

 


レイド「本当に…すまなかった…!!」


千智「…俺は嬉しいよ…。さっきまで閉ざされていた心を開いてくれて…!!レイド…!!ありがとう…!!」


レイド「千智…!!これからは味方同士だ…!!よろしくな…!!」


千智「あぁ!よろしく!!」



 俺はレイドとガッチリ握手を交わす。


 あぁ…これが友情と言う熱い絆なのか…!!


 感動と達成感が俺を満たしてくれた。


 さぁ…これから俺の物語が広がっていくぜ…!!


 しかしそんな俺達をリーナさんは呆れた顔で眺めていたのであった。





 

 

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