第10話 と言う事で、お客様のご来場です。
眩しくも清々しい日の光がカーテンの隙間から俺の顔に当たる。外では小鳥の囀ずりが聞こえ、美しい朝の訪れを報せてくれる。
…そう言えば、【囀ずり】って鳥が繁殖期を向かえた時に出す綺麗な鳴き声って知ってた?知らなかった君達はまた一つの成長したんだぜ!!
まぁそんな事は置いておき、俺は上に向かって両手を伸ばし、アクビと共に背伸びをする。
千智「ふぁ~…朝かぁ~。」
眠たい目を擦りながら部屋を出る。すると俺の部屋に向かってリーナさんが歩いてきてた。
千智「おはようございやぁす!」
リーナ「あら、起きたのね。丁度起こしに行こうかと思ってたの。」
千智「俺も今起きた所なんすよ!」
リーナ「そうなのね。朝食にしましょう。」
そう言ってリーナさんは静かに食卓に向かって歩き出した。俺もその後を着いていく。
食卓に着くと卓上には前日とは違った食パン、バター、シーザーサラダ、スープが並べられていた。
見ただけで解る。絶対に旨い。
リーナさんが椅子に座ると同時に椅子に座り、手を合わせ会釈をする。
そんな俺を見てリーナさんは不思議そうに聞いてきた。
リーナ「昨日もしてたけど、何してるの?」
千智「あ、俺のいた国では食事の前にこうやってして【いただきます】ってしてから食べるんすよ!」
リーナ「へぇ。そう言う習慣があるのね。」
千智「習慣と言うか、こうして食べ物と料理を作ってくれた人へ感謝の敬意を表すんです!まぁ、実際にはやってない人の方が多かったりもしますが(汗)でも俺は食べれる事がありがたい事でもあるし、作ってくれたリーナさんには本当に感謝してるんで!!」
リーナ「あら、ありがとう。」
リーナさんは優しく微笑み【ありがとう】と言ってくれた。
やっぱり好い人だな。俺なんかを匿ってくれて、色々な事まで用意してくれて、本当に…感謝極まりないな…。
いつぶりだろ。こんな感情に巡り会えたのは。
人ってのは、いつの間にか当たり前じゃない事を当たり前に思い始める。それはどんな人間でも、どんな年齢でも。
だけど、親元を離れたり、こうやって自分の知らない所に来た時…周りに誰も居なくてただ自分一人しか信用できないって場面に直面して、リーナさんみたいに優しくしてくれたり、ルークやシミュレーションのおっちゃんみたいに色々教えてくれたり…。そんな存在がどれだけありがたいか…。今は身に染みて感じる。
ここに来るまではとんでも展開がめちゃくちゃあ ったけど、この現状を作ってくれた俺の運命には感謝するべきなんだろうな。
そんな事を考えてた俺は、自分でも知らない内に朝食を食べながら涙を流していた。
俺の心情を見たのだろう。リーナさんは優しく接してくれる。
千智「…。」
リーナ「その気持ちを忘れずに持っていてね。そうすれば貴方はきっと良い道を切り開ける。」
千智「…はい。」
リーナ「ふふ。辛い事もあったんでしょうけど、貴方が私に言ってくれた様に、私も貴方の味方よ。」
千智「…。」
何だろう。恥ずかしくてとか照れ臭くてとか、そんなんじゃない何かに感情を奪われたこの感じは。
…ドキドキしてきた…。
おっと、待て待て待て待て待て、落ち着け俺。冷静になれ。取り乱すな…。
必死になって平然を装った顔を作る。
あの、男なら解るだろ?この感情…。何と言うか…あれだ。そのぉ、転校したての学校で一人きりだった俺に話し掛けてくれたのはクラスの学級委員だった。みたいなやつだ。
…解った。認めるよ。今俺はリーナさんを意識した。
そんな事を考えてる俺を見てリーナさんはクスクスと笑いながら少し楽しそうに片付けを始める。
千智「(…魔性の女ってやつか…。)」
黙ったまま、ついついリーナさんを見つめてしまう。
初めてそう言った面でからかわれる様な感情を受けた。
…いや俺だって恋人がいた時ぐらいある。お互いにからかいあった時だってそりぁ~あるさ。
…でも、その時とは何か違う感覚だな…。
…初めての経験だ。
良いな…リーナさん…。
色々な連想をしてしまう。その色々を皆にも伝えたいけど、伝えるとガッツリ【R】が付く。
ふと我に戻り、リーナさんが運んでいた食器を俺も一緒に運び、洗い場までやってきた。
漫画やアニメで見たことある様な綺麗な台所、シンクや台はピカピカにされてある。それにそこそこ広い。棚には綺麗に整列された食器、壁にはタオル、キッチンペーパー等も置かれてあった。
千智「スゴく綺麗に整理してるんすね…。」
リーナ「そう?少しでも汚いと気になっちゃって。」
千智「なるほど!綺麗好きなんすね!!」
リーナ「ま、そう言う事ね。」
気が付けばリーナさんの手伝いをしていた。
リーナさんが皿を洗い、それを俺が拭く。
昔から親の手元で手伝いをやってたから慣れていた。
リーナさんから誉めてもらえた時は素直に嬉しくて笑ってしまった。それと同時に頑張ろうと言う気が湧いていた。
その後も洗濯、畑の手伝い等、俺に出来る事は率先してやっていた。
そんな時だった。城の上空で爆発が起きる。
千智「何だ!?」
突然の事に動揺を隠せなかった俺は城の門へと走る。その後をリーナさんも着いてきた。
門に着き、森の方を見る。そこには一人の男がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。
冷や汗をかき少し乱れた呼吸をしていた俺に、リーナさんは依然として冷静な態度で教えてくれた。
リーナ「早速ギルドを受けた輩が来たわね。」
千智「やっぱり…!!」
男が門の前に辿り着く。手には大きくギラギラとした大剣が握られていた。その大きさは推定160cm程、刃は根本から2/3程が太く、残りは先端に掛けて鋭利になっていた。背中に鞘を背負っていることから、そこに収納しているのが解る。
男自身は身長が185cm程で、肩、胸、前腕、腰、脚に重苦しそうな銀色の装備を揃えており、キリッとした男らしくどこか威圧感すら感じられる容姿だった。
そして男は俺に対して口を開く。
男「てめぇだな…この世界を恐怖に陥れる魔王って奴は…!!」
千智「あんたは…!!」
《能力透視》を使い、男の情報を覗く。
【レイド】Lv.76 HP90/100 (火神族)
《火魔力:85(上限125)》《水魔力:30(上限80)》
《風魔力:32(上限85)》《光魔力:29(上限83)》
《闇魔力:45(上限90)》
《未解放特殊潜在能力:無し》
《超建築》《立体化》《錬成》
レイド…か。レベルは俺よりも高いし、火魔力は段違い。
特殊潜在能力が《超建築》《立体化》《錬成》?
大工か何かか?
おっと、そんな事を考えてる場合じゃない。
でも何でだろう。ゴーレムの時よりも緊張感がない。動揺してるのが見て解るかも知れないが、シミュレーションの時の方がビクビクしてたと思う。
そんな俺を見てレイドは得意気に笑う。
レイド「ヘッ!!魔王と言えど、まだまだ能力は低めで弱々しいな!!」
千智「結構自信ありげっすね。」
リーナ「相当自分の力に惚れてるみたいよ。」
レイド「さぁ!!その首をミリリア様の所へ持ち帰ってやる!!」
…何だコイツ…。
どことなく鬱陶しい。
あれかな。俗に言う熱血炎属性自信満々火力野郎って奴か。
異世界シリーズなら超絶絶対にいるキャラだな。
毎日の妄想と二次元の中での生活で何回も会話してきたキャラだ。
あ、レイドとじゃないぞ。俺の中のキャラとだぞ。
直立で腕を組ながらレイドを見る。
…面倒くせぇなぁ。
リーナ「千智、相手は貴方よりも上よ。」
千智「う~ん…水で弱点突いて火力でぶっ殺してもいいっすか?」
リーナ「あのね…(汗)昨日までの威勢はどこに行ったのよ(汗)」
千智「あ、そうだ。生かしたままこっちの味方にしなきゃ何だ(笑)」
俺が笑いながらリーナさんと会話をしていると、レイドは火を纒い大剣を構えだした。
そんなレイドを見た俺は少し焦りを見せてしまった。
急ぎ足で適当な構えを取ってレイドとの戦闘に備える。
レイド「行くぜぇぇぇぇぇッ!!」
千智「(冷静になれ。シミュレーションを思い出すんだ…。)」
レイド「オラァァァァァッ!!」
レイドの威勢の良い雄叫びと共に大剣が俺に向かって振り下ろされる。
大剣の動きを見切って横に飛び込み退避する。俺の立っていた場所には大剣が刺さり沈み、地面から火が上がっていた。
正直シミュレーションの時と同じく人生の終わりを確信した。目の前の信じられない光景を見つめながら冷や汗を流す。
おいおい待て待て、さっきまでの余裕はどこに行ったよ…!!
少し厳しくても相手に笑顔を見せろ…!!
ピンチを感じた時程余裕を見せる…!!
自分に言い聞かせ、引き釣った作り笑顔を見せる。
レイド「ヘッ!!まだ余裕ってか!!生意気なッ!!」
シミュレーションを思い出せ…!!
あのゴーレムは二属性になるタイプ、だけどアイツは火属性一択じゃねぇか…!!難しく考えるな…!!水魔力で対抗すりゃいいだけだ…!!
立ち上がり、水魔力に集中する。
顔は依然として引き釣ったままだ。だが…今は勝てそうな気がしてきた…。
後は…戦法と俺の頭のキレに頼るか…!!
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