第8話 と言う事で、新たな目標、誕生しました。  

 外の雨が窓ガラスに激しく叩き付けられ、その音と雷が部屋一帯に響く。


 薄暗い部屋の中で、自分自身の情けなさと罪深き行動に後悔している中、リーナさんが口を開いた。



リーナ「千智。今はそんな事よりも自分の心配をしなさい。」


千智「自分の…っすか?」


リーナ「そうよ。だって、今頃町は貴方の討伐で話は持ちきりでしょうね。」



 …そうかな?


 いきなり魔王がこの世界に現れたとは言え、誰かしら…疑わないか?例えば、俺に町とかギルドを案内してくれたルークとか、シミュレーションのおっちゃんとか、俺の事を知ってる人はまずないんじゃないかな…。


 いや、イケメン役員はガッツリ疑ってたよな…。でもあれは俺の能力値を知っての上で…。


 じゃあやっぱり俺の能力値を知らないルーク達はまだワンチャンあるんじゃないかな…。

 


リーナ「そうでもないのよ。」


千智「え…」


リーナ「ミリリアは別の世界の人間だったけど、その頃から一つだけ長けていた力がある。」


千智「長けていた…?」


リーナ「…洗脳よ。」



 …嘘だろ?


 そんなに都合のいい話があるのか?


 えぇ~…あははは…あぁ…そうっすか…。


 はぁ~(汗) 


 頭に手を着き、溜め息と共に苦笑いが出てしまう。

 何か…この辺も含めて既視感がスゴいんだよなぁ(汗)



リーナ「ミリリアがこの世界の人々を洗脳して貴方を敵に回したとしたら、どうなるかしらね?」


千智「…俺の所にギルドを受けた奴等が来ますね…。」

  

リーナ「その通り、今や貴方は絶好の獲物。魔王討伐だなんて、めちゃくちゃな報酬も約束されてるでしょうね。」



 俺は真剣な顔で腕を組み、難しい顔をしたまま思考をフル回転させるが、考えが纏まらない。


 …どうしよう…。


 斬新で新鮮なストーリーを作っていくって考えてたけど、このままじゃゴミ作品になりかねないなぁ。

 いや待てよ、ミリリアが洗脳に長けてるのであれば、リーナさんも洗脳されるんじゃないか?



リーナ「いいえ、ミリリアの洗脳には範囲って物がある。」


千智「は、範囲?」


リーナ「えぇ。範囲はとても小さいけど、真実を知らない人からすればミリリアの情報は定かなものかも解らない。でも洗脳してしまえば後は洗脳された人々が別の人に広めていく。それだけで思う壺に持っていけるわ。」


千智「人間って怖いっすね(汗)」


リーナ「人間の思考もだけど、何よりこんな状況に陥れたミリリアが一番怖いわ。」



 変わらず腕を組んだまま考え事をする。


 ……………。今俺は何をしてるんだろ。


 異世界に飛ばされて、今までにない異世界シリーズを作ろうと決意したものの、魔王と言う冤罪を被せられ古城の中で元この世界の住民であり元死神の女の人と話して…。


 …違う…!!俺の妄想していた異世界シリーズは…こんなんじゃなかった…!!


 もっと、こう…くっころ女騎士とかロリっ娘魔法使いとか巨乳淫乱サキュバスとか…そう言うのを仲間にしてハーレムを築き上げるのが理想だったんだよ…!!


 …って、これじゃ斬新さも新鮮味も無いか。


 そんな事を考えている俺をリーナさんは引き気味の目で見てくる。


 何だ、この痛くて悲しい視線は。

 心の目が汗をかくような…この目線は…。



リーナ「…(汗)」


千智「どうしたんすか?」


リーナ「いや、何?くっころ女騎士とロリっ娘魔法使いって…。それに巨乳淫乱サキュバスなんか貴方の性癖もろ出しじゃない…(汗)」


千智「あ、聞いてたんすか?」


リーナ「えぇ(汗)あと気になったんだけど、さっきから異世界シリーズやら新鮮味やらって、何を言ってるの?」


千智「いや、新しいタイプの異世界シリーズじゃないと読者層は読んでくれなくなると思うんすよね。」


リーナ「は、はぁ(汗)」


千智「んで、何か新しい展開を見付けなきゃなんすけど、何かないかな…って…あぁぁぁぁぁッ!!」



 思わず手の平に拳をポンッと置き思い付いてしまった。

 魔王と言う冤罪を挽回するのではなく、本当に魔王になってしまえば斬新で新鮮なストーリーになるんじゃないか!?


 いや、冤罪は何とかしないといけないか。


 んで、いずれはこの町を支配する…!!


 これはキタ…!!


 俺の脳内を閃光の光が駆け回る。

 一つの悩みが解消できたのだ。

 【チート能力で今までに無い異世界シリーズを作ってこの物語の主人公になる】


 完璧だ…!!


 ところがリーナさんの視線がグサリと刺さる。



リーナ「正気?(汗)」


千智「え?あ、はい。」


リーナ「本当に魔王になるの?(汗)考え直した方が良いんじゃ…(汗)」



 それが普通の一般人の意見だろう。

 だが主人公になってしまった以上、作品と言う一つの物語の上に立つ者なのだ。

 他が何と言おうが俺はこの作品を仕上げる為に魔王になろう。


 さっきまでの姿とは打って変わってキリッとした表情と凛とした声でリーナさんに返す。



千智「勿論です。ただでさえタイトルも他の作品と被りそうなのに、他の所被っちゃったら本当にゴミ作品になるっすからね。」


リーナ「ちょっと、無理があるんじゃ…」


千智「無理をするのが俺達主人公なんです。安心してください。チート能力があればどんな展開にでも転がせます。」


リーナ「…はぁ(汗)」



 リーナさんは呆れた苦笑いで溜め息を着く。


 …心なしか悲しくなってきた。


 いや、悲しくなんかない!!何でチート能力なんかもらった!?それは俺がこの作品の主人公として胸を張って物語を作り上げていく為であり、俺の理想郷を作り上げる為だろ!!


 何故かしらやる気が沸いてきた。


 単純な男なのかもしれない。それでもこの作品を仕上げたいからやるしかない。


 …見てろよ…異世界で魔王になって新たな異世界シリーズを開拓してやる…!!


 …とは言っても、残虐な事とか非道な事は避けたいな。まぁ、俺の思考なら非道はあっても残虐は無いとは思うが…。


 色々と考えてたらニヤニヤしてきちゃった。

 そんな俺を見てリーナさんは引き気味に対応してくれた。


 …引き気味にだが…。



リーナ「と、とにかく、自分の命が狙われているって事を忘れずにいなきゃダメよ(汗)いつ襲ってくるかも解らないんだから(汗)」


千智「そこは解ってるっすよぉ(笑)」


リーナ「なら良いんだけど(汗)」


千智「うっしゃ!!今日から、新生魔王葛城千智の爆誕だ!!」


リーナ「…(汗)」



 俺は椅子から腰を上げると、右腕を天に掲げ気合いの入るポーズで叫ぶ。

 その姿をリーナさんは相変わらず苦笑いと呆れた表情で見ていた。


 と言う事で、死神からチート能力もらった俺は異世界で魔王として君臨します!!



 

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