第7話 と言う事で、謎の女の正体を掴みます。

 女に言われるまま古城に入った。

 城の中は薄暗く、少しじめじめとしていた。内装は典型的な城の中の様なものではなく、シンプルで特には物等は置かれていなかった。


 初めての城に、俺は周囲を見渡す。



千智「(広いけど…あんまり物は置いてないんだなぁ。)」


女「…物で溢れてるのはあんまり慣れなくて。」


千智「え!あぁ!そ、そうなんすね!!」


 

 正直ビビった。考えてる事が丸解りだなんて。

 しかも、さっきなんか何も言ってないのに事情を理解してたな。


 …特殊潜在能力とか…かな…。



女「それもその内解るわ。」


千智「あ、あははは(汗)」



 怖いな。能力を探ったりしてるけど見えない…まず変な事を考えようものなら今ここで死にかねない…。たぶん。


 …って何も考えられなくなるぜ!?



女「安心して。貴方を殺したりはしないわ。」


千智「は、ははは(汗)」



 女に案内された部屋に入った。そこには絨毯がしかれていてソファが二つ向い合わせで置かれており、その間に長方形のテーブルが一つ。周りには花瓶が一つといかにも【客室】といった様な部屋だった。



千智「(客室かな…。)」


女「そうよ。念の為と思って用意しておいて良かったわ。」


千智「あ、あははは(汗)」



 くっ。苦笑いしか出来ねぇ…。


 …ふと何かを考えてしまう自分の脳が怖くなってきた。


 …そんなに何かを思い浮かべてるのかな…。


 う~ん…そこに意識を向けた事がないから解らん。

 難しい顔をしながらソファに座り、なるべく考え事をしないようにしていると、女はお茶を差し出し俺の向かい側に座った。



女「まぁリラックスして。相当酷い目に会ってきたみたいだから。」


千智「あ、はぁ。」


女「私はリーナ。よろしくね。千智。」


千智「何で俺の名前を…と言うか、何で何も言ってないのに俺の過去を…」


 

 リーナと名乗る女は動揺する俺を気にする事なく冷静に話し続ける。

 そして耳を疑う内容を聞かされた。



リーナ「初めに言っておくわ。私は死神よ。」



 千智に電流走る。

 麻雀の経験は無いがマジで電流走った。

 驚きを隠せず口が閉じなくなった。

 次に俺が口を利けるまでものの数秒しか経ってなかったのだろうが、俺からすればかなり長い時間に感じた。


 そんな驚いてる俺を見て、さも解っていたかの様にリーナさんは話を続ける。



千智「し、死神?」


リーナ「えぇ、私は死神であり、元々この世界にいた闇魔族の魔女よ。」



 すまん、理解が出来ん。

 死神であり魔女?


 ………はい?


 一回整理させてくれ。

 元々この世界に住んでいた魔女って事?んで何らかの理由で死んで死神なった。ところがまたこの世界に飛ばされた…って事?


 俺が更に難しい顔をして考えているとリーナさんはその考えと会話するかの様に話を続ける。



リーナ「解釈は合ってる。私はこの世界で闇魔族の魔女として生きていた。先祖代々魔女の家係でね。でも、私の両親が魔力を使って人々を利用したり気に入らなければ暗殺したり、やっていることが本当に卑劣で汚かった。人々は両親を拒絶してた。私は基本的には一人でいたわ。両親は家に帰ってこなかったから。けれど私も周りから否定された。いじめも受けたし蔑まれもした。ずっと、一人ぼっちだった。」



 

 何も言えない。

 寂しげな表情とどこか悲しそうな声を目の当たりにして何も言えない自分が情けないな。

 こう言う時って、男なら何か言葉をかけて慰めたりするのが…って言うのはあるんだろうけど……今の俺には出来ない…。


 何て言えば良いのかもわからない…。

 膝に手を置いたまま、ただ黙っているしかなかった。



リーナ「昔から一人で誰にも相手にされなかった私にはある力があってね。それが、対象に意識を集中させるとその相手が何を考えてるか、どんな過去を持ってきたかとかが解る力、【心読】と【情報凝視】。」


千智「【心読】と【情報凝視】…。」


リーナ「えぇ。さっきまで貴方に使ってた力。」


千智「は、はぁ…。」


リーナ「これを身に付けた途端、私は外に出ることが無くなった。外に出れば無意識にも人々の心の声が聞こえてくる。耐えきれなかった。だからずっと閉じ籠ってた。でもそれも終わり。私が22歳ぐらいの時に自らの魔術で自害した。」



 魔術で…自害した…?


 それ程まで追い込まれていたのか…。

 俺は何故か申し訳なさと情けなさに襲われ、依然として黙ったまま話を聞くしか出来なかった。



リーナ「ふふ。そんなに深く考え込む必要はないわ。」


千智「…。」 


リーナ「私が自害した後、目を覚ましたのは真っ暗で何もない空間だった。」


千智「それって…」


リーナ「そうよ。貴方がここに来る前に行った所、死神の間。」


千智「死神の間…。」


リーナ「私はそこで骸骨に見込まれて死神になった。初めは良かったわ。死人を厳選して別の世界線に案内して、その世界の秩序や災害を防いでた。でも、あの死神、ミリリアが来てから全てが狂った。」


千智「ミリリア…?」


リーナ「貴方を今の事態に追い詰めた死神よ。」


千智「アイツが…!!」



 再び電撃が走った。アイツはリーナさんにまで迷惑を…いや、迷惑じゃ済まないかもしれない…。


 腸が煮え繰り返りそうだった。


 俺は黙ったまま拳を固く握り、込み上げてくる怒りを抑えていた。



リーナ「落ち着いて。」


千智「…はい。」


リーナ「ミリリアは死神になった途端にやりたい放題。適当な死人を用意しては適当な場所に飛ばして、自分では何も責任を取らない。私が何を言っても聞く耳を持たなかった。次第に世界の秩序は乱れて壊滅した世界も出てきた。そんな中で私は気に食わないからって私を追放されたの。」


千智「追放…?」


リーナ「えぇ。私がいれば、自分の好き放題にするのに支障が出るからね。」


千智「何て自分勝手な…!!」



 正直怒りを抑えるのに必死だった。

 さっきまで散々な事をされてきて尚且つこの話を聞かされたからだ。


 ふざけるのもいい加減にしろ。そう心に言っている俺に気付いていたかの様にリーナさんは話を続ける。



リーナ「…怒るのも無理ないわね。貴方だってミリリアに迷惑掛けられたんだから。」


千智「それに…あの骸骨だって…!!」


リーナ「私が死神の時から適当な性格だったから。でもミリリアが私に何かして死神議会に厄介事を起こす前にここに飛ばしてくれた。そこだけは感謝してるわ。飛ばされてこの城に辿り着いた私は、今までずっと籠ってた。そう言うクセが付いちゃってるんでしょうね。」


千智「あの!!」



 頭が判断する前に口が動いていた。  

 いきなり口を開いた俺を見て、リーナさんは少し驚いた表情をしていたが、考える間もなく俺は続けた。



千智「その…何と言うか…罪人が作った芸術品や名曲に嫌気とかが無いのと同じで…えっと…リーナさんの両親がどんな罪を犯した罪人だとしても…リーナさんに罪が無い訳であって…えと…その…拒絶したり蔑んだりなんかしません…!!だから…!!だから…その…お、俺は…誰が何と言ってようと…リーナさんの…味方…です…。」



 俺とした事が大事な局面で緊張と恥ずかしさに襲われてどもってしまった。


 やっぱりダメだな。俺って。


 下を向いて情けなさに嘆いていると、リーナさんが優しく微笑みながら【ありがとう】と言ってくれた。


 それを見た俺は少しばかりこの状況に感謝してまったかもしれない。


 そしてリーナさんは話を続ける。



リーナ「けれども、偶然って怖いわね。ミリリアがここに来るだなんて。」


千智「で、でも、ミリリアはリーナさんがいることに気付いていないのでは?」


リーナ「だとしても時間の問題よ。この世界に飛ばされたミリリアはこの世界で生きていくしかない。それに様々な情報が行き交ってる中で、国を占領したミリリアの耳には、ほぼ確実に入ると言っても過言ではないわ。」



 …深刻な事態になったな。真剣に悩む顔になってしまった事で作り笑顔すら作れなくなった。


 今までに無い経験だ。



 ギルドに俺の討伐依頼を出されたら…間違いなく町の奴等が俺を殺しに来る…。

 それに、俺が風魔力で落としたあの警備員が俺がこの城に降りる所を見てた…。アイツがミリリアに告げ口でもすれば…!!


 ちくしょう…!!どうすりゃいいんだよ…!!


 奥歯を噛み締め悔しさの余り全身に力が入る。

 仮にも俺がリーナさんから離れて息を潜めたとしても、リーナさんに災難が降りかかる…!!


 俺がここに来たのが悪かったんだ…!!



リーナ「貴方は何も悪くないわ。たまたまここを見つけて降りてきた。それだけ。重苦しく捉える必要はないわ。」


千智「…。」



 罪深さを感じながらリーナさんの言葉を励みにしていた。

 泣きそうになる感情を抑えて、リーナさんと話を続けた。

 外では雨が降り始めてきた。どしゃ降りだ。それに合わせて雷も鳴っている。

 その雨の音は、まるでミリリアとこの世界の魔術師共が俺達の元へと足を運んでいる音にも聞こえた。

 

 

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